俺様御曹司による地味子の正しい口説き方 ※SS集

茜ちゃんとシールを付けて会場に入ると、すでにあちこちで歓談が始まっていて、会場奥の隅の方にあるスペースでウェルカムドリンクをチビりと飲みながら開始を待った。

「すごい人だねぇ」

そわな当たり前のことしか口に出来なくて、華やかな会場内の雰囲気に既に気後れしていた。

「本当だね。でもさ、なんか見られてない?杏ちゃん知り合いって多かった?」

「いやいやいや、私、ずっと茜ちゃんと、優ちゃんといたからそんなに知り合の子っていないよ?茜ちゃんは?」

「同じく」

だよね?と、顔を合わせて笑い合った。
茜ちゃんの言う視線はきっと、会場内のあちこちを見ているだけだろうし、私には分からない。

さっきの橘さんのようにクラスメイトと話すことはあっても、行動を共にしていたのは茜ちゃんと、優ちゃんの二人だけだ。

茜ちゃんと優ちゃんといるだけで、なんて楽しいんだろう。
それだけで笑みが漏れる。

「ふふふ。茜ちゃん、楽しいですね」

優ちゃんも早く来ないかな。

「あっ、分かった。そうか、そりゃ大変だ。心配するわ」

「へ?何が?」

「あー……うん。なんでもないから」

不思議に思って首をかしげていると、再び携帯が着信を知らせる。
あっ、優ちゃん。

携帯を触らないとは約束したけど、これは仕方ないよね。うん。

「もしもし?」

━「杏ちゃん、茜ちゃん、どこーーーー?」

「ちゃんと着いた?」

━「うん、会場の中にも入ったんだけど人が多くてなんか前に進めなくて」

「へぇ?えっとですね、入り口からまっすぐ奥の、隅の辺りで茜ちゃんといます」

━「奥?うーん。分かった、頑張って行ってみるわ」

ここまで来るのに、何を頑張るんだろう?

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