幸せに負けてください

ふにゃりと微笑まないでほしい。どうして、私にしか好みのカフェオレを頼まないのだろう。そんなふうに甘えられてはひとたまりもない。


蓄積された色々と、最近知った事実が混ざり、なんだかもう後戻り出来ない。


私は、風間さんのことを、好きになってしまったんだろう。


馬鹿だ。彼のことを殆ど知らないのに堕ちてしまうなんて。好みの顔が知る限り嫌いでない性格をしているのがいけない。




……でも、恋になってしまったものに先はない。成就は勿論、告げることさえ。


風間さんの、変わることのないという恋愛観を、何度か話してもらったときの光景と共に瞼の裏に浮かべた。




「恋愛には適さないんだ。少し前に証明もされたし」


私が知っているとも知らず、風間さんは話す。


「仕事好きなんだよね。何よりも優先するのが当然なことくらい楽しい。邪魔されると鬱陶しい」


功績は賃金という明確なものによって形となる。ここに泊まる費用の心配はいらないくらいはね、と。


「だから、正直誘われるのもうんざりなんだよね。そういうのは――迷惑だ」


そうですか……それ以外の言葉を、どう紡げるというのか。


自分ならその価値観を変えられるなんて言い切れない。


ただただ、私だけに向けられるふにゃりとした微笑みに、胸が締めつけられるだけの秘密の恋。
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