幸せに負けてください
そんな片想いさえも、続けていくのが困難となる日は近くやってきた。
いつものようにカウンターに座る風間さんの元に、ひとりの綺麗な女性のお客様が近づいてきた。余程の事態にならない限り店側としては不介入で、私はその光景を気にしながら遠くから見守ることしか出来ないでいた。
程なくして、女性のお客様は帰っていった。けれどその顔は、何かあったのか憤慨されていて。
カウンターに入り風間さんを窺うと、その表情が嫌悪感にまみれていたのと、吐き出されたひとことに動揺する。
「……めんどくさ……」
カフェオレとチョコレートをそっと置くと、私は何も言わずにその場から、風間さんが帰るまで必要以上に離れた。
……手の、震えが止まらなかったのだ。
もう、片想いもやめようと思った。さっきの女性のお客様のように、嫌悪で見つめられる存在にはなりたくない。
だから、逃げ出すことにした。
その日以降、私は風間さんが来店しても他のスタッフにそちらへ行ってもらった。怪しまれないように、いつものチョコレートを添えたカフェオレは変わることなく距離を保ち。
少しだけ、時間が必要だった。気持ちが薄れるまで。そうなればいずれ、最初の頃のようなただの憧れの対象になり、平気となる。
一度怯えてしまった恋心は、私には少々御し難かった。
自然に振る舞えなかったのか、訝しむ風間さんは、けれど気にするでもなく同じペースで来店される。そのことに落胆する私は勝手だと、次第に俯く回数は増していった。