都会の片隅で
茜
「帰って」
私は正哉の顔を見て開口一番、そう言ってしまった。
だって今、正哉には彼女がいるんでしょう?
あの時、酔っていたらしい彼の肩を抱いていた人は、とても綺麗な人だった。
私の事なんか、ただの幼馴染の妹としか、思ってないクセに。
そう思ったらたまらなくなって、つれない言い方をしてしまった。
フロントデスクの傍らの専用席で昼寝していたジュリエットが、ぴんと耳を立てて起き上がったぐらい、鋭い声だったらしい。
正哉は一瞬黙り込んだけれど、やがてスーツの懐からリボンが掛かった小さな包みを取り出して、中身を開け始めた。
出てきたのは、綺麗な指輪だった。
昔、縁日で買ってもらった玩具の指輪じゃなくて本物の。
やめてよ。もう期待してがっかりしたくないの。
「これ、お前にやるから。俺の話を聞いてくれ」
「帰ってってば。正哉は、仕事が忙しいんでしょ?」
「何でこっちに来たのに、俺に連絡しねぇんだよ」
「忙しいと思って」
「いくら忙しいからって、俺がお前に会うのをめんどくさがると思ったのかよ」
「だって、だって彼女さんに誤解されたら、正哉困るでしょ?」
「ハア? 彼女って誰だよ? そんなん居ねぇよ」
「居ないって、だってこないだの夜、一緒に家に帰ってきてたの見た……」
「ハア???」
私と正哉が何処か噛み合わない会話をしていたその時だ。
傍らですっと動いた黒い影。ジュリエットだ。
気紛れな黒猫は、デスク上に放られたままだった指輪をぱく、と咥え、何とそのまま駆け出してしまった。外に。
「え、ちょ、何これ。おいバカ猫、待て…!」
「ジュリエット! それ持ってっちゃ駄目! 待って!」
かくして指輪を咥えた黒猫一匹を追い掛け、私と正哉は外に駆け出す事になった。
私は正哉の顔を見て開口一番、そう言ってしまった。
だって今、正哉には彼女がいるんでしょう?
あの時、酔っていたらしい彼の肩を抱いていた人は、とても綺麗な人だった。
私の事なんか、ただの幼馴染の妹としか、思ってないクセに。
そう思ったらたまらなくなって、つれない言い方をしてしまった。
フロントデスクの傍らの専用席で昼寝していたジュリエットが、ぴんと耳を立てて起き上がったぐらい、鋭い声だったらしい。
正哉は一瞬黙り込んだけれど、やがてスーツの懐からリボンが掛かった小さな包みを取り出して、中身を開け始めた。
出てきたのは、綺麗な指輪だった。
昔、縁日で買ってもらった玩具の指輪じゃなくて本物の。
やめてよ。もう期待してがっかりしたくないの。
「これ、お前にやるから。俺の話を聞いてくれ」
「帰ってってば。正哉は、仕事が忙しいんでしょ?」
「何でこっちに来たのに、俺に連絡しねぇんだよ」
「忙しいと思って」
「いくら忙しいからって、俺がお前に会うのをめんどくさがると思ったのかよ」
「だって、だって彼女さんに誤解されたら、正哉困るでしょ?」
「ハア? 彼女って誰だよ? そんなん居ねぇよ」
「居ないって、だってこないだの夜、一緒に家に帰ってきてたの見た……」
「ハア???」
私と正哉が何処か噛み合わない会話をしていたその時だ。
傍らですっと動いた黒い影。ジュリエットだ。
気紛れな黒猫は、デスク上に放られたままだった指輪をぱく、と咥え、何とそのまま駆け出してしまった。外に。
「え、ちょ、何これ。おいバカ猫、待て…!」
「ジュリエット! それ持ってっちゃ駄目! 待って!」
かくして指輪を咥えた黒猫一匹を追い掛け、私と正哉は外に駆け出す事になった。