キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
先生から声を掛けられたのは…

それから10日ほどたった、参観日の前日のことだったの。


「先生、靴箱の名前が取れてたよ。はいっ!」って名前シールを渡された。

明日の参観日に備えてお掃除してた時に落ちたのかな?

「ありがとうございます。」ってお礼を言って

続きの掃除に取りかかろうとしたら…

「自分の子供の名前がないと保護者は気にするし、苦情を言ってくる人もいるから
道具箱やハンガーもチェックしておいた方が………って…。

ごめん!

別に注意するために声を掛けた訳ではないのにな。
先生を見てると…いらないことばかり言ってしまう。…ごめん。」


あぁ~危な~い!

そうだよねぇ~。初めての参観日で自分の子供の名前がないと、悲しいよね。

先生に注意してもらって良かったぁ~!

保護者の苦情なんて、考えただけで恐い。


なんて思いながら先生の話しを聞いていたのに…


違うみたい⁉

何かなぁ~?


珍しく歯切れの悪い言葉が続いて不安になっていたら…



『この間はごめん‼』

いきなり90°のお辞儀をして誤ってた。


何⁉……???


先生のお辞儀に、窓や廊下を掃除してた数人の先生が

チラチラこっちを見てる。


「先生‼頭を上げて下さい‼」

慌てる私に、もう一度"ごめん"と言いながら頭を上げて


「この間はホントにごめん!!
…………………………先生は、悪くないのにな…。
少し感情的になっていたみたいで。口調も悪かったし……。
オレに話し掛けられると、先生は萎縮するのが分かってたのに……キツイ言い方をして…。
早く謝らないとって思いながら遅くなって………」



あぁ~スゴいなぁ~

自分に非があるって思ったら認めて謝るんだぁ~。

これを見たら、また皆がカッコいい‼って騒ぐんだろうなぁ~


ひとごとのように思って見ていたけど…

よく考えたら、私には謝られる覚えがない⁉

正直、何に謝られているのか分からなくて…オズオズと…声を掛けてみた。


「あのぉ…。何の話しか…??…。」

悪くもないのに怒られた記憶なんてないし、先生とこんなに話すような出来事も

思いつかないもん。

普段、先生の顔をまともに見ることが出来ないのに

"分かりません!!"って見つめていたら、伝わったみたいで…


「この間のバスの件。
遅刻した先生に代わってわざわざ乗ってくれたのに…怒るようなまねをしてしまって。」

梓ちゃんの件のこと??

「あっ…あれは…先生に怒られて当たり前です。私が悪いから……。
失敗ばかりで一番迷惑を掛けているのに"先生達の役にたってる"と
思い上がってしまったから………。怒られて当然です。
すみませんでしたって言わないといけないのは私の方で…」

しどろもどろに答ていると



はぁ~っとひとつため息をつきながら

「そう取ったかぁ~。
まぁ先生らしいっていえば…そうだよなぁ~
とにかく!先生は何も悪くないから、そんな風に考えないで‼
参観日前の忙しい時にごめんね。
またゆっくり理解してもらうから、とにかく明日がんばって‼」

って言われ

先生の言葉に、明日の参観日を思い出して仕事に戻った。


さっきの会話は気になるものの、まずは明日の大きな行事に向けて頑張らないと‼

先生に教えてもらった名札チェックの仕事も増えたし、今日は帰れないかなぁ~?

明日の不安を胸に手を動かしていたら


「先生何て言ってたぁ~?」

「急接近~」とからかいながら、梓ちゃんと海晴ちゃんが近付いてきた。

「えっ!名札が取れてたって…保護者に不快な思いをさせないように
チェックしなさいって言われちゃった。」

「ええっ~!先生謝ってたよぉ。」

さすがに先生の行動は目立ってたみたい。

他の先生達も三人の会話に聞き入ってる。

梓ちゃんの遅刻で叱られたなんて、本人に言えないし…

先生の言いたかったことも、謝られた意味もよく分からなかったから焦っていると


「唯ちゃんへの伝言を忘れてたんだって~」ってニコッと笑いながら

彩ちゃんが職員室から出てきた。


「ねっ!」って相づちを求められて、「そうそう!」って答るのがやっと。

「何で彩が知ってるの?」

「先生が"忘れたぁ~!"って職員室から出て行ったから。」

「なんだぁ~。先生でも忘れることあるんだねぇ~」

二人が納得して帰って行く後ろ姿を見ながら

「良かった?」って…

「うん、ありがとう。
助かった…。なんて答たら良いか迷ってたから。」

「それなら良かった。」

彩ちゃんは、もう一度ニッコリ笑って、二階に上がって行った。


あれくらい頭が良くて、気配りが上手なら

悩まなくても一人で答が出せるのかなぁ~?

先生との会話について聞いて見たかったけど…今は明日の参観日の方が大切だから

諦めて見送った。



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