キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
次々登園してくる子供たちを

クラスごとに並べてバスに乗せていく。

最終チェックのお陰かな?バスの中では落ち着いて行動できた。

点呼にアンケート、歌やクイズ・ゲームもバッチリで

楽しそうに笑う子供たちの姿も。


無事、動物園に到着!

友達や保護者と来る初めての遠足に、興奮する子供たち。

おまけに、バスの中で出来た新しいママ友にお母さんたちもなかなかまとまってくれない…


写真は遠慮せず、急いで並ぶように言われてたのに…。

少しもたついていたら、他のクラスがドンドン並び始めて焦ってしまった。

「先生~揃ったぁ?ここ空いたよ!急いで~」と森先生が強引に順番を取ってくれ

「大丈夫?全員揃った?
右端の子が前の子と被ってるから直して!」とテキパキ指示を出して…


「は~い‼では、いきますよぅ。
アンパンマンはどこかなぁ~」

カメラの所から出てきたぬいぐるみに全員が集中‼

「はい‼お疲れ様で~す」

一瞬で撮り終えてしまった‼

いつもはまだまだ落ち着きのない3歳児。

それがホンの一瞬で…

スゴい‼尊敬‼

私も早くあんな先生になりたいなぁ~。


先生のお陰で早く写すことができたから、そのまま全員で動物を見ながらゾウの所まで移動した。

「わぁ‼キリンさんのクビ長~い‼」

「ゾウのウンチ!でっか‼」

子供たちの無邪気な声に耳を傾けていたら

「先生、お疲れ様!
新人の先生だからどうかな?って思ってたんだけど、バスの中も楽しかったし
子供たちも先生が好きみたいで安心しました。」

「そうそう‼優しい先生みたいで。」

「それに、沢山の先生がお友だちみたいで。
同性に好かれるなら良い人だからね。女ってハッキリしてるから。
私も会社勤めだから分かるの!」

「そうですよねぇ。
その点唯先生は、四人の先生にお昼を誘われたり、森先生に写真の順番を早めてもらったり
主任先生に大丈夫?って気に掛けてもらってたりと人気者だから」

うわぁ‼お母さんたちって…スゴい‼


先輩の先生に、保護者の目は怖いって聞いてたけど…ホントに良く見てるなぁ~

子供より先生のチェックをしてるって…ホントだ。

園長先生にも「家の中に入るまで先生でいなさい。」って言われた意味が

良く分かったよ。


前に園から一時間離れた所でデートした先生が

次の日に園に行くと

「先生~彼氏がいたんですね。」

「もうすぐ結婚ですか?」って保護者に迫られたって…

噂話は一瞬で広まるから大変って…先生たちが話してた…

動物園に到着してまだ30分。

なのに、行動をこれだけチェックされてたら、これから長いのに…怖いなぁ~


ゾウを見ながら

「明日は今日の遠足の絵を描くから、いっぱい見て楽しんできてね。
では、お昼ご飯の時に会いましょうね。」と言って

集合時間と場所を説明して解散。

なんとか前半をこなして、先生たちも自由時間。

五人が揃うのを待って、束の間の休憩を楽しむことに。


私のクラスは、お産でお母さんが参加出来ない子がいるから

一人子供を連れての自由行動。

五人プラス子供で回ることになった。


初めての遠足。

周りは皆、お母さんと一緒。

おまけに…

帰ってもお母さんは入院中だから、お婆ちゃんとお留守番。

きっと…寂しいはずだよね。

新人の私には、まだまだこの子の心を全て汲み取ってあげるのは難しい。

大丈夫かな?って不安に思っていたら

"一人では難しくても、五人ならなんとかなるよ!"

"五人が全力でママになろう‼"って言ってくれた。

ホントに頼もしい仲間だね‼


抱っこや肩車をして動物を見せてくれたり、歌を歌ったり

数人のグループの子供たちに声を掛けて、一緒に回ったり…

皆のお陰で淋しそうな表情を一度も見ることなく過ごしてくれたの。

"仲間って良いなぁ~"

いつもなら"助けてもらって申し訳ない‼"って思うのに

"こんな仲間といれて、幸せだなぁ"って思ってる。

不思議…。

今まで、こんな事を感じたことはなかったのに。

これが先生の言う信頼なのかな?

幼稚園って…

子供たちに初めて、お友だちに出会わせてあげる場所だって思ってたけど

それは私にも当てはまるみたい。

信頼関係なんて難しいことは、まだ良く分からないけど…

心から

"友達が出来た‼"って思える。


ぼんやりと考えていたら、シャツを引っ張られて

「せんせい、こんどはヘビがみたい。」って言い出した。


ヘビ~………。

う~ん。

困ったなぁ~。


ヘビは夜行性動物の所にいるからなぁ~。

暗い、狭いは大の苦手。

ホント…苦手が多いなぁ。

おまけにヘビって…夢に出ちゃうよぅ。


一瞬にしてブルーになった唯を見て、何かを感じ取ってくれたみたいで

「先生ねぇ~お腹が痛くなったんだって。先生たちと見て来よう‼良い?」

って…しゃがみこんで、子供に話してくれている海晴ちゃん。

「四人で楽しませて来るから、出口で待ってて!」

「大丈夫‼皆、先生なんだもん。」

「安心して待ってなさい。」

口々に笑いながら、話してくれる。

「お願いします。」

四人に甘えて、お任せした。

優しい嘘に騙されて、心配そうに四人と入って行った子供の後ろ姿に

"ごめんね"を言って、一足先に出口に向かった。

爬虫類館は、流石に保護者に人気がないのか

ほとんど人を見かけなかった。

出口直ぐのベンチに腰を下ろして、皆の帰りを待っていたら…

「先生。一人??」

振り向くと、森先生が沢山の荷物を抱えて歩いていた。

救急セットにボール、着替えにカメラと三脚。

自分のリュックにはお弁当も入っているだろうし、水筒もあった。

スッゴい量!


「先生、大丈夫ですか?」

「あぁ~ちょっと重い。…隣、良い?」

正直…隣は…って思ったのが、顔に出たのか…

先生は、隣に荷物だけ置いて立ったままだった。

「あっ‼…座って下さい‼」

ちらっと私を見て、ニッコリ笑って頷くと

ベンチの端に腰掛けた。

…荷物を間に挟むようにして…


また気を使わせちゃった。

改めて荷物を見ると、タオルやウエットティッシュ、旗に名簿…それに何故かロープまで!!

本当に重そう。

広い館内をずっと持って歩いていたのかと思うとびっくり‼

身長は180㎝あるって噂だから…30㎝位大きいんだなぁ~

それでも細身だから圧迫感は感じない。

腕とか筋肉が見えるから…それなりに筋肉質かもしれないけど…

額の汗以外はあまりかいてないから、特別辛そうにも見えないし…

男の人って…スゴいなぁ~

って感心してたら


「そんなに見られると、穴が空きそう」って笑ってた。

!!!!

わぁ‼恥ずかしい!!

「あっ…すみません‼」って慌てて下を向いたら

「いや…からかっただけだから。何を見てたの?」って

まさか先生を…なんて言うわけもいかず咄嗟に

「ロープ‼あっ…えっと…ロープです。何に使うのかな?って…
まさか、ライオンや熊が逃げた時の為??とか…」

もう、訳の分からない事を言ってしまっていたら

「プッ‼
いくらオレでもそこまでは無理だよ。まぁ先生に期待されるなら頑張るけど‼できるかなぁ~
ロープは…
ないに越した事はないんだけど、どんな事故があるか分からないからね。
他にも、工具やビニールシートは園バスに乗っけて来たよ。
去年は急な雨にシートは役立ったしね!
園とは違って危険も多いし、子供たちも羽目を外すからつい荷物が増えちゃうよ。」


スゴいなぁ~って感心してたら

「他の先生は?」って…

きっと、先生にしたら会話の続かない私に気を使って振ってくれた話題なんだけど…

すっごくまずい‼

四人に任せて一人座ってるなんて‼

自分のクラスの子供くらい、ちゃんと責任もってみなさい‼って怒られそう~

おまけに暗い所がダメなんて…

怒られる~!ってドキドキしながら

「私のクラスのお母さんがお産で来られなくて、さっきまで五人で回ってたんですが…
"ヘビがみたい"と言い出して…
私…暗い所も…ヘビも苦手で…
四人に頼んでしまいました…。」

話すのもオドオドで…多分、不安も顔に出てたのかな?

注意される‼ってすくみながら返事を待ってたら…

「先生らしいね!」って笑われた。


らしい?…??…。

言われた意味は、良く分からなかったけど

とにかく‼怒られなくて、助かったぁ~‼

以外な返事に拍子抜けして、緊張の糸がほどくけると

思わず…ほぉ~って…

ため息が漏れちゃった。


苦笑する先生。


「やっぱりオレといると、緊張するし怖いみたいだね。」って

あぁ~!また失礼な態度をとっちゃった。

「あ、いえ…。そんなことは、えっと…。」

別に、怖くは…う~ん。やっぱり、怖いかな?…でも、

う~ん。怖いと思ったのは、怒られると思ったからで…先生そのものは…

怖くは…ない?

いや…怖い?あれ?なんて言えば良いの?

頭の中がぐるぐるして、整理がつかずにいたら

「まぁ、怖くても仕方がないよな。ごめんね。そろそろ行くね。」って

笑いながら荷物を再び持とうとした。

あっ!!このままにしたらダメ!!

お礼だって言えてないのに、誤解で嫌な思いまで…そう思ったら‼

「違うんです‼
あっ違わないかな?
とにかく‼違うんです。
怖いって言うか…緊張はします。それに、やっぱり…怖い…です。
でも!助けて頂いて、本当に感謝してます!
ありがとうございます。
まだいっぱいいっぱいで…話すのも…苦手で…。伝わりにくいって言うか…」

結局言葉が続かず、尻すぼみになってしまい慌てていたら

「そっかぁ~」って一言言って、笑いながら荷物を降ろしてくれた。

よかったぁ~

安心したのも束の間、ひき止めたものの会話が続かない。

ソワソワ落ち着かないでいたら

「先生…彼氏…いる?」

「えっ‼彼氏…?…いませんけど…」

「そう。」

びっくりしたぁ~‼

先生の口から彼氏なんて…

しかも、仕事中に…

先生も会話に困ってるのかな?

もちろん、そうだよね。私と二人って…

「先生は、結婚されてるんですか?」

「えっ‼」

あれ?聞いたらダメだった?

「すみません。」

「いいよ。してるように見えた?
まぁ~先生から見たら、オジサンだしね。
してないよ。ちなみに彼女もなし!
当分、その予定もないかなぁ」

「オジサンなんて…そんな。えっと…」

気まずいなぁ~

先生くらいの年齢の人に、結婚はダメだったんだぁ

先生って…何歳なんだろう?…でも、聞いたらダメな気がする。

失礼??

う~ん。

視線を感じて、顔を上げる

「また色々考えてる?話す内容?聞いて良いかって?」

スゴい‼彩ちゃんみたい‼

唯の考えてることが読める‼

びっくりしていたら

「先生は分かり易いからね。隠してるつもりでも、全部顔に出てるよ!
だから、大丈夫って誤魔化してもダメだよ!」って


その後は

唯が答え易い質問ばかりで…結局、気を使わせちゃった。

四人が出てくる少し前に

「五月蝿いのが来る前に退散するね」って言って

重い荷物を持って、一足先に集合場所に向かった。

会話なんて続かず、先生に気を使わせちゃったけど…

助けてもらったお礼が言えて、ちょっとだけ満足した時間になった。




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