キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
帰りのバスに乗り込む前に、朝と同様「先生!」って手招きされた。

「朝のアンケートを運転士さんに伝えて、聞いたバス停で間違えないで降ろしてあげて
寝てる子もいるから気をつけて!
これで終わりだから、最後まで頑張ってね‼」

「はい‼」


後少し‼

これを全部きちんとこなして、もう一度先生にお礼が言いたい。


先生の教えを頭に入れて、最後の一人まで気を抜くことなく頑張った。

後は、バスに荷物の忘れ物がないかチェックして降りるだけ‼


??

あれっ!!

…まさか‼


ええっ‼


荷物に夢中になってて…


自分が降りてない!


!!!!!!!!!!!!


観光バスは、大きいから園に入れない。

先生たちは、園に一番近いバス停で降ろしてもらってくださいって…


マズイ‼

どうしよう‼

「すみません。運転士さん。私…降ります。」

「あれっ?先生、降りてなかったの?」

「はい。」

路肩にバスを止めて、思案顔の運転士さん。

「このバス…園までいけないよ。結構通り過ぎちゃったから、園に連絡してあげるね。」

「あっ、いいです。降ります!歩きます!…降ろしてください‼」

「いや…遠くまで来たから、あまり遅いと…事故かと心配するだろうし。」

「あっ。はい。…すみません。そうですよね。お願いします。」

そうだよね。…バス会社だって、困るよね。


あぁ~!失敗しちゃったなぁ~

どうしよう。

あれ程先生にフォローしてもらったのに。

全員帰らないと解散にならないから、他の先生たちも帰れない…

疲れてるのに、申し訳ない。

あぁ~ん。自分のバカさ加減に涙が出てくる。


バスの一番前に座って俯いていたら

「先生。…お待たせ。」

迎えに来てくれたのは、森先生。

…今日一番の怖い顔をしてる。


「うちの先生がご迷惑をおかけしました。連絡ありがとうございます。」

運転士さんに挨拶をして

「降りて…。」

私の荷物を持って、降りるように促した。


バスを見送って、森先生の運転して来た小型バスに乗り込む。

「すみませんでした。」

謝ることしか出来ない…


朝から沢山の人に指示を出し、荷物を運んだり写真を撮ったり、子供たちと遊んだりと…

本当に忙しかった先生。

それなのに、私のフォローも沢山してくれた。

失敗なく一日を終えて、きちんとお礼が言いたかったのに。

涙が落ちそうになった時


「プッ‼」

吹き出す声に、顔を上げると…

鏡に映る先生の笑った顔。


ええっ!

先生の笑い声に目をぱちくりしていると、

「あぁ~真面目な顔するの、辛かったぁ~
しっかし‼先生って…ホントに、ドンクサイよね。
あぁ~可笑しい‼
保護者が降りるバス停を間違えたら大変だと思って、何度も注意したんだけど…
まさか‼自分が降りるのを忘れるとはねぇ。
そこまでは、想像しなかったけどね‼」って…

ホント、自分でもびっくりです。

まさか、こんな失敗をするなんて…

反省していると

「先生たちには先に帰ってもらったから」って、まだ笑い声のまま

安心する一言を教えてもらった。

先生のスゴい所って、先の先が読めること。

私の迎えだって大変なのに

いつまでも帰れない先生たちのことを考えて先に帰ってもらった。

先生のようになんておこがましい事は言わないけど

少しでも近づきたいなぁ。

「安心した?」

頷いたら

「園に帰って皆がいたら、先生って辛いでしょう?"申し訳ない~"とか言いそうだもんね。
だから、帰ってもらった!」

「ええっ‼…私…???」


驚くと

「他に何かある?
あれっ?もしかして、先生たちを待たせたら可愛そうって考えたと思った?
疲れてるから早く帰らせてあげたいとか?ナイナイ!」

いつもより、軽い口調。

きっと、気を使って言ってくれてる。

先生の優しさに心が温かくなるのに、それと同時に…なんだか苦しくなる。

「今日は、本当にありがとうございました。
なのに、こんな大失敗をして…。
お疲れなのに、本当にすみませんでした。」

お詫びばかりの私…


戻れるなら、写真撮影くらいに戻ってやり直したい。

会話ももう少し上手にしたかったし

帰りだって…失敗したくなかったな…。

本当は"準備の時から悩んで、心配かけて…。


でも、先生のお蔭で、何とか無事に終えることが出来ました。

本当にありがとうございました!"

って笑顔で伝えたかったのに。



「先生って…目が離せないよね。
何かしそうで、つい目で追ってしまう。
初めの印象は、おっとりしてるけど…いつも笑ってて子供たちにも人気があって
良い先生だなぁ~って。
なのに、日が立つにつれて…色々な人に
"ごめんなさい""すみません"って謝ってる姿ばかりが目立つようになって
笑顔も引きつって…。
気になって見てたら、人の仕事まで背負い始めて…。
ホント、びっくりしたよ!
お人好しもここまでするか!って。
自分の心と体がいっぱいなのに、何やってるんだ‼ってね。
ついついイライラしちゃって…キツい声を出したら嫌われて。
オレが近づくと緊張するようになって…正直、お手上げだった。
何とか助けてやりたいって思っても、裏目に出るし。
今回、
オレがフォローするのは、先生にとって迷惑だって分かってた。
それでも頑張ってる先生が、みすみす失敗するのは避けたかったから…
強引に話しを進めた。
まさか…こんなオチになるとは、想像出来なかったけどね‼
まぁ~でも、無事に終了!お疲れさま。
大きい行事を一人でこなして、少しは自信がついたよね。
オレのフォローがなくても大丈夫だろうから
ここで止めるね。
困ったらいつでも言ってくれたら良いから、一人で無理はしないこと‼
人に頼って良いんだって、覚えといて。」

先生の話しが終わるタイミングを待っていたように、バスが到着した。

「お疲れ~!」って一声掛けて、入って行く先生に

「ありがとうございました。」ともう一度お礼を言って

長かった一日が終わった。


今日は…

決して褒められた日ではなかった。

大失敗はもちろん。

初めから、先生のフォローがなければ何一つまともにこなせなかった。

さっきの先生の話しは、正直驚いた!

ダメな奴と嫌われているって思ってたのに。

先生として一人前になれるよう、温かく見守っもらっていたなんて…。

反省ばかりの一日だけど、先生とゆっくり話せたことは良かったな。

先生のこと…誤解してたみたい。


明日からは、注意とフォローがなくなるのかぁ~


そんなことをしてもらっているのは私だけだから

されないってことは皆と同じスタートに立てたってことだから嬉しいはずなんだけど…

ちょっと不安だなぁ~

見守ってもらってたって、知ったとたんに終わりなんて…

明日から大丈夫なのかな?


なんて!


今までは、

フォローされて情けないなんて思ってたのに…ワガママ。

これで、当たり前なんだもん!頑張らなくっちゃ‼





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