キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
ドキドキ
始業式で園長先生が

「みなさん、にがっきはたのしいことがたくさんあります。
がんばらないといけないこともあるとおもいますが、ちからをあわせて
いっしょにがんばりましょうね。」って

子供たちに挨拶した通り…本当にハード‼


運動会にお遊戯会、遠足にお餅つきにクリスマス…

加えて、参観日に個人懇談。


"幼稚園で個人懇談‼"

初めに聞いた時は、本当にびっくりしたけど…学生の頃にあったものとは違うらしい。

まぁ~進路指導なんてあるとは思ってないけどね‼

「おねしょが止みません。」「兄弟喧嘩が激しくて」と家庭の悩みを聞いてあげる。

でも…

年長組になると、たまに小学校受験の相談もあるみたいだけど…。

一学期が家庭訪問だったから

二学期は、園に来てもらうの。

これだけ行事をこなしながらの家庭訪問は、先生たちが倒れちゃうからね。

だけど…

いくら園に来てもらっても…やっぱり大変。

行事の合間に、一人ひとりをしっかり把握して記録を録っておかないといけないから。

日々の生活も大変なのに…

大丈夫かな?

一学期は、日々の生活を先生に助けてもらったし

遠足でも大失敗しちゃったから…がんばらないと‼




決心して10日目。


先輩の先生に「唯先生、ちょっと良い?」って呼ばれたの。

「9月のお誕生会の準備を、先生に任せたいの。
直ぐに運動会があるから、年長、中の先生は忙しくて…
この時期は年少組の先生にお願いしてるの。
当日の司会や先生の出し物は、年長、中で引き受けるから
準備のいるところを任せて良い?
誕生月の先生を調べて、ペンダントを作るのと、
当日流す音楽や準備物の用意。
先生は作るのが得意だから、大丈夫でしょ?」って

「はい‼」

初めて自分一人に任されたお仕事。

今まで、助けてもらう事はあっても

頼まれることはなかったのに…


うわぁ‼うれしい。


早速、行事用ノートを確認に来ちゃった‼


九月の…誕生日の…先生は…。

あぁ‼主任先生と森先生だぁ~‼

今月がこの二人なんて‼


私が任された今月は…偶然にも

一学期、本当にお世話になった二人。

ちょっとドキドキするけど…日頃の感謝の気持ちを込めて

精一杯作らせてもらおう‼


主任先生が9月3日で…44歳。

森先生は…9月10日で…30歳。

へぇ~。

私より10歳も上なんだぁ。

どうりで、大人なはずだよね。

10歳上って言ってたら、高校の時の先生くらいの年の差だもん。

だから緊張するのかな?



「あれっ?先生。
暗いのに大丈夫?電気点けようか?」

声の主は森先生。

「あっ!すみません。
今、今月の誕生日の先生を調べてたので。直ぐ出ます⁉」

慌てて返事をしたら

「あぁ~いいよ。俺も色画用紙を取りに来ただけだから。
俺のペンダント、先生が作ってくれるんだぁ~。
楽しみにしとくよ!」

笑いながら、出ていく先生。


びっくりしたぁ~

ちょうど今、先生のことを考えていたのにぃ!

"楽しみにしてる"かぁ~。

プレッシャーだなぁ。

でも…

人に期待されるのって…なんだかとっても、うれしい‼

任せてくれた先輩先生や

誕生日の森先生と主任先生に

"任せて良かった‼"って言ってもらえるように、頑張ってみよう‼


その日から

本屋に寄ったり、先輩の先生にアドバイスをもらったり

過去の見本を見せてもらったりして、ペンダント作りに精を出した。

途中四人には

「愛情こもってる!」なんて、からかわれたけど…

10日かけて、無事完成した。

我ながら"良くできた!"なんて自惚れてしまう作品は

職員室でも大好評で…

「あぁ~ん!可愛い‼私もこんなのが作って欲しい‼」

「唯先生を、誕生日ペンダントの専属にしちゃおうかぁ~」

って先輩先生にも言ってもらえる程だった。

もちろん当日まで、二人の先生の目に触れないように大切に保管して。




当日

10時に始まった誕生日会は

誕生月の子供たちの入場から始まって、インタビュー ・プレゼント渡し

歌と進んでいき。

次は…いよいよ先生達の出し物になった。

今月は、年中の先生による手品だから、舞台の真ん中にテーブルを一つと

端に準備物を置くテーブルを用意した。

準備物は、手品のカードとコップと水。

ロープにハサミ…

それから!

出し物の後で渡すペンダント。

忘れ物がないようにしっかりチェックをしたから大丈夫‼


一人目の出し物は、夏苗ちゃん。

ロープの手品をするの。彩ちゃん家で何度も見てるのに…

友達がするとやっぱりドキドキ。

今までに何度か失敗して、一つの輪にするはずが二本に切れていたから…

余計に心配。

他のメンバーも落ち着かず、キョロキョロ。

ロープを広げる瞬間は、思わず目を瞑っちゃった‼

これ程、手にあせ握る手品は初めてかも。

次の先輩先生のカード手品は…

皆が"さすが!!"って

思わず声が出てしまう程見事な出来。

他の先生達も、本気で拍手してた。


ラストを飾るのは…少し大がかりなもの。

先輩先生もドキドキしているみたいで、手が震えてる。

テーブルからコップと水を運ぼうとしたら…

「あっ‼」

手が滑ってテーブルの上に、水がこぼれてしまった。

直ぐに、タオルで拭いて、代わりの水を用意する。

先生も焦った表情を一瞬見せたけど…

さすが、何年も先生をしているだけあって、何事もなく手品は進み

無事に出し物は終了した。

ただ、

テーブルにこぼれた水が、運悪く隣に置いてあったペンダントにかかり

悲惨なものに…

幸いにも直ぐにタオルで拭いたから

遠目には色画用紙の花で彩られたペンダントは華やかで

子供たちにも「キレイ」「可愛い‼」と大絶賛だったけど…

ペンで書いた文字は滲み、水に濡れてフヨフヨになった紙は

涙を流したように見えた。

水をこぼした先生は、直ぐに謝ってくれたけど…

その表情が泣きそうで、私まで申し訳なく思ってしまう。

私がテーブルに置かなかったら良かったんだよねっ…

「大丈夫ですよ。」って伝えたけど…それ以上気の効いた言葉も言えず

自分にも、責任があるって思うと自己嫌悪に陥りそう。

それに…

主任先生や森先生は、大人だから本気でペンダントを楽しみに

してるはずはないけど…

せっかくのバースデーだから、きちんとお祝いしたかったな。


だから!

作り直そうかと思ったんだけど…

さっきの泣き顔を思い出すと

唯が時間をかけて作ってたことを、知ってる先輩先生は

"申し訳ない"って気にされるかな?って思って

作り直すのも悪い気がして…。


どうしたら良いのか、本当に迷っちゃう!

それでも子供のいる時間だから、自分の世界に浸る訳にもいかず

悩みながらお弁当の時間にした。



「先生~森先生が呼んでるよぅ~」

子供たちの声に顔を上げると

「これ、ありがと‼」って笑いながら声をかけられた。

手にはさっきのペンダント。

まだどうしたら良いか心が決まってない内の先生の登場に

「でも…」と言ったまま次の言葉が出ない。

戸惑って黙っていたら

「ねぇ~先生。
今、主任と話してたんだけど…
この上からもう一度、メッセージを書いてくれる?
たぶん、先生のことだから
オレや主任に対して"誕生日のお祝いなのに"って思うだろうし
直したら、こぼした先生が責任を感じるかもって悩むんだろうし
自分は何も悪くないのに責めちゃうだろうから…

もう一度、この上から書いてもらおうって決めたの!
どう⁉当たり?悩んでた?」

「あっ…はい…。
でも…それは…テーブルの…それも水があることを知ってたのに
置いた私が悪かったからで…
沢山の人に迷惑をかけて、申し訳なくて…」

「ねぇ~先生。
準備物やペンダントをテーブルに用意するのはいつものことだよね?
別に、先生が初めてやったことではないでしょう?
何でもかんでも自分のせいにして、全てを被るのは良くない事だよ。
もっと、自分を評価してあげないと。
先生は悪くなかった‼
こぼしたのは仕方ないけど…今回はその先生のミスなんだから。
ねっ!!
それよりも、もう一度上から書いてくれる?
行事がいっぱいで忙しい時期だから"おめでとう"で充分だから。
先生が頑張って作ってくれたのは、オレも主任もちゃんと見てたから。
ホントにうれしかったし楽しみだったんだよ。
主任も…
"とっても丁寧に心を込めて作ってくれて嬉しかったよ。
上から書いてくれたら、大切に飾ります"って伝えて欲しいっ…て…。
あれっ…あ~…先生…。」

悩んでたから、温かい言葉を聞くと…ほっとしちゃって…。

涙が溢れてしまった。

今はお昼の時間。

周りにはもちろん、沢山の子供たちが座ってお弁当を食べている訳で…

「あぁ‼森先生が唯先生を泣かしてる」

「園長先生に言ってやろう!」

「女の子を泣かしたら、ダメなのに‼」

いつもは子供に大人気の先生が、三歳児に責めらてタジタジ……。

「違うの…あのね‼嬉しくて涙が出ちゃったの。」

一応言っては見たものの…三歳児にこの気持ちを理解できるはずもなく…

うちのクラスの子供たちに不評を買って、困った顔の先生。

泣いてたはずなのに…思わず笑いそうになっちゃった‼

「先生~後のフォローをお願いするねぇ~。
ではみんな、さようなら~。仲良くお弁当を食べるんだよぅ~。」

いつもとは逆で、私にフォローを頼んで急いで職員室に戻って行った。

私の手には、ペンダントが二つ。

一度滲んでしまったから、上から書いてもきっと…不恰好になっちゃう。

それでも今回のことで、先生達にはもっとお礼を言いたくなったから

心を込めたメッセージを書くつもり。

四人とは、また違う形で私を理解して見守ってくれる人達。

悩んでることは全てお見通し‼

誰も嫌な思いをしない最善策と暖かい言葉を用意して

直ぐに駆けつけてくれた。

先生達には"ありがとう"の気持ちを沢山込めて

言葉を綴りたい。

"この一年、先生達が幸せでありますように"と祈りながら…





後日三人に…

「ねぇ~唯ちゃん。先生に泣かされたんだって!」

「何があったの~?」

「子供たち、色んな先生に言いふらしてるよぅ~。」

「子供たちの前で唯ちゃん泣かせるなんて…。
先生もアホだよね!!」って聞かされてびっくり‼

先生にはあんなに優しい言葉をかけてもらったのに

どうも悪者になってました。ごめんなさい。




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