キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
お掃除を終えて、いよいよ忘年会。

今日は、自分の中で一番大人っぽい服装にしてみたの。

何となく、いつもと違う自分を見て欲しくて。

…なのに

やっぱり四人にも、先輩にも敵わなくて

一番子供みたい。

ちびっこ三人組なのに海晴ちゃんと夏苗ちゃんって…実はとってもスタイルが良くて

胸だって…大きいの‼

着替えの度に「唯ちゃんらしい大きさだよ。」って笑われるんだ。

だから二人は、ヒールの高い靴を履いてそれらしい服装にすれば

そこそこ年相応に見えるんだよね。

結局、あまり代わり映えしないまま会場に向かった。

昨日、彩ちゃんのお家で話したことが少し気になるけど…

いよいよ今年最後の先生だから、遠くからこっそりしっかり眺めて

心に残しておこう‼

時間通りに到着して部屋に行くと

席順はくじ引き。

幹事さんのアイディアで、年齢も役職も関係なくふれあいましょうって…

私の席は6番。

隣はまだ来てないみたい。

向かいの席が主任先生で…その隣もまだ…。

………何となく嫌な予感がする………。

って言うか…嫌な予感しかしない!!

だって‼まだ来てないのって…先生と園長先生なんだもん‼

……………………………………。

予感的中~!

「御愁傷様。」って笑う三人。

隣が先生で、斜め前が園長先生。

せっかくのんびり先生を眺めるはずだったのに⁉

二時間緊張しっぱなしだよ~。

慣れないお酌に、泡だらけのビールになってしまった。

それでもニコニコ笑って、相手をしてくれる先生達。

先生に至っては、唯の偏食まで知ってるから

「先生、これは食べれる?」「これが好きならオレのもあげるよ。」と

お世話まで焼いてくれて…申し訳ないの。

三人は構われる唯を肴にケラケラ笑ってるし

唯一の彩ちゃんまで口パクで"頑張れ!"って応援のみ。

あ~ん!!誰か助けてよう~。

一時間が過ぎた頃、ようやく落ち着いて…先生は園長先生と

飲みながら会話を始めた。

「先生はもう30になったんだっけ?」

「はい。九月で…」

「だったら、そろそろ奥さんを貰わないとねぇ~。予定は?彼女はいるんでしょ?」

思わず耳がいってしまう。

「いえ…それが…なかなか…。」

「良いなぁって思う人はいるんでしょ?」

「はぁ~…。まぁ…。」

そっかぁ~。先生、好きな人がいるんだぁ。

落ち込んでいたら…

「園長先生、誤解しますよ。」ってニッコリ笑って私を見る主任先生。

…………?………??…。

「森先生、募集中ですよね‼」って今度は先生に念押ししてる。

……?……???…。

何の会話かなぁ?

ぼぅっとしてたら

「先生、応援しようか?こうゆうの、一回やってみたかったんだよねぇ~‼」って

何やら楽しそうな園長先生。

「イヤ‼困ります‼絶対、断ります‼園長…飲みすぎですよ!」

なんだか、いつもは見れないくらい慌ててる先生。

周りの先生達もクスクス笑ってるし…。

四人に至っては、大笑いしてるの。

……みんな、お酒が入って楽しそう。

先生を見たら、苦笑いされちゃった。

「そう言えば…唯先生は彼氏はいないの?」

突然の園長先生の攻撃にビックリ‼

「はい。…今は仕事を覚えるのも大変で…お付き合いなんて…。」

「だって~。森先生っ!
唯先生なら先生にピッタリなのにねぇ。」

「「ええっ!!」」

思わず先生と、声がハモっちゃったぁ~!

何で私⁉

ドキドキしながら先生を見たら…先生も目を丸くさせて私を見てた。

「唯先生、森先生なら恋と仕事を両立できてお得ですよ‼どう??」

ニッコリ笑われても…

私の気持ちって…バレバレなの⁉

焦っていたから園長先生のイタズラっ子の顔を見ることはなく

「あぁ‼ダメだぁ~。
うちの園は、社内恋愛禁止なんだったぁ~!親父の代から決まってたんだぁ。
ボクの立場だと…応援して…あげられないよう~。」

泣きまねまでしてる園長先生に付き合って…主任先生まで

「そうですねぇ~。
それなら、理事長先生と話し合って…廃止にしたらどうですか?
今の時代産休も当たり前なんですから。夫婦で働いてもらったら良いんですよ‼」

「そっかぁ~‼そうしたら、二人の子供も通わせられるねぇ‼」

もう、冗談なのか何なのか…分かんなくなっちゃったぁ~。

ここの園って…唯の心の中が筒抜けなの⁉

みんな笑ってるし…先生は凄くイヤそうな顔をしてるし…

居たたまれないよう~。

う~ん。

トイレに避難しちゃおう‼

トイレで気持ちを落ち着けていたら…思ったよりも、長く居たみたい。

席に戻るとお開きの時間らしく

「先生。二次会どうする?二人で飲もうかぁ~。」って園長先生が先生を誘ってた。

いつもホントに仲良しで…親子みたい。

「あぁ…そうですねぇ~。」先生が返事をしかけた時に

三人がやってきた。

「唯ちゃん、カラオケ行こう。」

「あっ‼先生も一緒に行きましょう‼」

「この間は疲れてたけど、今日は大丈夫でしょ?」って…

「あぁ…。」

困ってる先生に

「若い先生達のお誘いには行くものですよ‼先生。
どこにチャンスが落ちてるか分からないですからね‼」って

先生の生歌‼

いつもなら、心の中で"きゃ~!"って喜んでいるはず。

だって、こんなチャンスないんだもん。

でも…

さっきの園長先生と先生の会話を思い出したら、素直に喜べないよう~。

……………だって。

先生は、会社で言うところのサラリーマンでしょ?

園長先生は社長さん。

いくらアットホームで…先生達が親子のように仲良しでも

上司の誘いを断って、若い子とカラオケなんて有り得ないよね⁉

お父さんがそんなことしたら、一発でクビだもん‼

この園でクビは有り得ないし、園長先生が意地悪する訳ないけど…

やっぱりマズイよね?

でもね…

四人は、悪くないの。

まぁ~タイミングは悪かったけど…。

「明日から冬休みで先生に会えない。淋しいなぁ~。」なんて唯がつい言っちゃったから

気をきかせて先生を誘ってくれたんだと思う。

その証拠に、唯の隣に先生を座らせて

時々チラッと見ては、ニコニコ笑ってるから。

私だって嬉しいよ‼

優しい友達に、感謝だっていっぱいしてる。

でも‼

タイミングが悪過ぎたんだよね‼

先生も園長先生に「行きなさい。」って言われた手前カラオケに参加したけど…

上司を断って不味かったかなぁ~って思ってるはずだよね。

好きな人が、自分のせいで嫌な思いをするのって悲しい。

あぁどうしよう‼って言っても…もうカラオケしてるから遅いけどね…。



昨日………もっと真剣に話しをすれば良かったな。

この間の飲み会の事を、他の先生達に知られないようにって…。

若い先生達と飲みに行くって思われて、先生のイメージが悪くなると困るもん。

佐藤先生の事があるから、どうして飲みに行ったのか話せないし…。

結局、あまり親しく見えないようにしようって決めたのに…。

カラオケを誘うタイミングが悪くて、先生に迷惑をかけちゃった。

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