キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
帰って寝ても、やっぱり昨日の出来事が気になって…手紙を書いたんだ。

内容は…

片思いの私を喜ばせるためにカラオケ行きを決めて…先生を誘った!

なんて書けないから。

落ち込んでいた私を励ますために、カラオケを決めたこと。

近くにいた先生を誘ってしまい…

園長先生の誘いをキャンセルさせてしまって申し訳ありません。って

四人は悪くないから、迷惑をかけちゃって嫌な思いをさせた私を怒ってくださいって。

先生のメールアドレスを知らないから…手紙。

……でも…これが大変だったぁ!

だって~普段手紙なんて書かないから、なんて書き始めたら良いのか

分かんないの。

友達じゃあないから、話し言葉はダメだし…

本を見たら"拝啓"なんて書いてあるし…

何度も書いては消して書いては消してってしてたら

出すのに3日かかっちゃった。



次の日はイヴ。

彼氏持ちの三人は、今夜から予定が詰まっているらしく昼間のクリスマス。

今日は、五人で遊ぶ今年最後の日。

だから、先生を気にしていた事も手紙を出した事も言えなかったの。

だって…

カラオケからずっと私が気にしていたなんて言ったら心配するもん。

ケーキを食べておしゃべりをして、プレゼントの交換なんかもしちゃって

楽しい時間を過ごした。

そうしてクリスマス当日。

この日は朝から家族全員が出掛けてて…一人で留守番。

お昼までは、テレビを見たり仕事をして過ごしたんだけど…

テレビから流れるクリスマスソングを聴くと一人だなぁ~って実感してしまって…

買い物に出ることにしたの。

バスに乗って二つ進むとショッピングセンターがある。

本屋さんで恋愛小説一冊とファッション雑誌を買った。

その後は、一階の食料品売り場へ…。

一人でもクリスマス気分は味わいたいからチキンとケーキを買って、6時にお店を出た。

駅前には綺麗なイルミネーションに飾られた、大きなツリーがある。

少し眺めて帰ろうかな?って思ってたけど

買い物帰りの家族連れや彼氏に手を引かれて幸せそうに笑ってる女の子を見ると

なんだか一人でいることが淋しく思えて、帰ることにしたの。

あぁ~あ。

一人って淋しいなぁ~。

もしもサンタさんがいるなら、クリスマスプレゼントに誰か連れて来てくれないかなぁ。

一人淋しく家路について、玄関の鍵を開けていたら

ピロロロ……ピロロロ…

家電話のベルが響いてきた。

「はいは~い!!」

電話に向かって返事をしながら、慌てて鍵を開けたのに

後一歩のところで切れてしまった。

あぁ~残念‼

まぁ~家電話だから、セールスかもね。なんて思って

さっき買ってきたケーキを冷蔵庫に収めていたら…再びコールが

今度こそ‼って急いで取って「はい!」って出たら

「あっ、私…タンポポ幼稚園の森と申します。夜分遅くすみませ…」

「えっ!……先生‼」

「あぁ~唯先生?
声がそうかな?って思ったんだけど、ハキハキしてたからお家の人かと。
今、大丈夫?さっきかけたら留守だったから。」

あれ?何度もかけてもらったのかなぁ?~

「あっ…今、買い物から…帰って…。あっ⁉今、大丈夫…です…よ…。あの…えっと…」

「あぁ~やっぱり先生だ!いつものテンポに戻ってる。
さっきは慌てて電話を取った?」

笑いながら話す声は、いつも聞いてるものなのに

受話器を通して聴こえてくると…いつも以上にドキドキしてしまう。

直接耳に届くからかなぁ?

でも…どうして電話くれたのかなぁ?

まるでクリスマスプレゼントみたい‼

もしかして…サンタさんにお願い事が聞こえて、叶えてくれたのかなぁ?

それなら、最高のプレゼントだよ‼

一人淋しくクリスマスを過ごしていたら…

片思い中の大好きな先生から電話がもらえたんだもん‼

これは……夢?……

こっそり頬をつねっていたら

「お~い‼先生、聞いてる?」って…先生の焦った声が聴こえた。

「はい⁉…聞いて…ます。…すみません。」

聞いてないなんてお見通しの先生は、クスクス笑いながら

「オレの携帯番号教えるから、先生からかけてくれる?
もし掛けにくいなら、オレからかけるから…先生の番号を教えてくれたら良いんだけど。
どっちが良い?」

「あっ!だったら…かけてもらっても良いですか?
私からかけるのは、勇気がいるので。」

「勇気かぁ~。先生らしいね!
いいよ。オレからかけるね。あっ!でも…勝手に登録とかはしないから安心してね‼
じゃあ、すぐにかけ直すね。」

受話器を置くと、携帯を片手に部屋に向かった。

ベットに座ってすぐ、携帯から大好きな着メロが流れてきた。

「はい。」

「先生?すぐにかけ直したけど、大丈夫だった?
買い物から帰ってきたばっかりだよね?もう少しして掛けようか?」

「いえ!大丈夫です。クリスマスケーキを買ってきたので、もう入れました。」

「そっかぁ~。クリスマスだよなぁ~。ケーキってことは…彼氏と食べる?」

「あっ…えっと…だから…そんな人は…いないです…。ホントに…彼氏なんていません…。
家族って…言いたいのですが…今日は…みんな留守だから…
一人用のケーキを買って来ました。
ちょっと淋しいですけど…クリスマスだから…やっぱり食べたいなぁ~って。」

「一人クリスマスケーキ‼
それはちょっと淋しいねぇ~。まさか一つ買った?
あれっ!…そう言えばフルーツってダメじゃあなかった?」

「はい。フルーツのない物も沢山あるから…。
さすがに一つは言いにくいから…二つ買っちゃいました。」

「来年は、二人で食べれたら良いね。」

「はい。」

「えっ⁉分かってる??」

「は…い?…。」

「……だろうね!
あぁ~びっくりした‼なんでもないです。
そう言えば、五人で集まらないの?クリスマスなのに~
みんなで大騒ぎしてるのかと思った。」

「今日は彼氏と過ごすみたいです。
私のことを心配して…"今日にしよう"って言ってくれたんですが…
断って、もう早めに済ませちゃいました。」

「それはそれは…。
なのに、ごめんねぇ~。よりによってクリスマスにオレと電話なんて。
実はね、今朝…先生からの手紙が届いてて…」

「あぁ‼」

そうだった‼

手紙を出したら安心して忘れてた‼

私は出して言いたいこと言ったから落ち着いたけど…

先生だって、言いたいことがあるよね!

……………だから…電話なんだ……。

何がサンタさんのプレゼントだよね…アホ過ぎだよぅ~

「あれっ!…もしかして、忘れてた?」

…先生って…ホントになんでもお見通しだぁ。

「あっ…いえ。忘れてたって言うか、手紙を出したら自己完結してしまって…
先生からのお返事があるなんて…頭にもありませんでした。
あの…。手紙のこと…。
本当に、すみませんでした。
勝手なことばっかり書いて…。
自分でも…どうしてあんなことができたのか…驚いてます。
私の気持ちばかり押し付けてしまって…。
嫌な気持ちになってますよね?」

謝ってたら

「先生って…電話の方が沢山話してくれるね。オレの怖い顔を見なくて良いからかなぁ?
手紙は…正直、びっくりした‼
朝から思ってもみないものが届いたからね。サンタなんて三歳くらいまでしか
信じてなかったけど…今日は"いる‼"って思ったね!
いつも引っ込み思案な先生が…
オレのために色々考えてくれたって思うと、ホントに嬉しかったんだぁ。
ありがとね。
嫌な気持ちなんて、一つもないよ。むしろ、嬉し過ぎてハイテンションだよ‼
園長のことは…まぁ~誘われた時から迷ってたし…心配ないよ。
あの人、かなり酔っ払ってたからね。先生も分かるでしょう?
あれ以上飲ませたら、理事長に大目玉だよ。
三人に無理矢理誘われたなんて思ってないよ。
前からカラオケに行く時は誘ってって言ってたし、行きたかったから…。
まぁ~先生が歌ってないのが残念だったけど。嫌い?」

「嫌いって言うか…手紙に書いたようなことが気になって…」

「あれ?もしかして、オレのせいで楽しめなかった?ごめんね!」

「あっ…いえ。」

「まぁそんな感じだから心配ないよ。
ただね、手紙に"先生を励ますためのカラオケ"ってあったでしょう?
ちょっとね…あれが気になって…電話してみたんだ。
別に…プライベートなことに踏み込んで、聞こうって気はないんだけど…
もし、オレに言えることだったら相談にのるし…
助けられるなら、もっと良いなって思って。
……どう??」

サンタさんのプレゼントなんて…図々しい考えだと思ってたけど…

あながち間違ってなかったのかなぁ~?

だって、大好きな先生に電話をもらえて…優しい言葉をかけてもらったんだよ!!

でもまさか、悩み事は先生への片思いで…

冬休みに会えない淋しさを励ますためにカラオケに行きました。

なんて…言うわけにもいかないし…。

心配して電話までもらったのに"なんでもありません"なんて言えないし…

悩んだ末に。プライベートで悩んでることを話すことにしたの。

「あの…ホントにプライベートなことで…園とは関係ない事なんですけど…
いいですか?」

「オレはいいけど…。
先生、無理に話さなくてもいいからね。
言いたかったら勿論聞くけど、無理はしないでね。」

「はい。
あの…ですね…。今って言うか…ここ2年くらい…うちの両親の仲が悪くて…
仕事を理由に遅くなったり、帰らなかったりって事がしょっちゅうなんです。
たまに家族が全員揃っても…家庭内別居みたいに会話もなくて。
妹も…そんな両親を見るのが嫌みたいで…家を空けることが多くて。
いつも…一人なんです。」

「あぁ~だから、今日も一人クリスマス?」

「はい。いつも四人が一緒にご飯を食べてくれるのも…一人だと偏食するから心配して…
今日も一人にしないように"一緒に"って言ってくれたから…
妹がいるって言ったんです。」

「そっかぁ~。」

「すみません…クリスマスにこんな話しを聞かせて。
あの…でも…もう2年もこんな風なので…大丈夫です。
私が変な書き方をしたせいで、先生にまで心配をかけてしまって…ホントに
すみませんでした。あの…」

「ねぇ~先生。…淋しい?」

「えっ?…あの…そうですねぇ。
淋しいのも…そうですけど…淋しいより…怖いですね。
暗いとか雷とか、凄く苦手で…。物音にビクッとなったり
一人でシャワーを浴びると後ろに何かいそうで…怖くなって。
なるべくテレビや音楽をかけて賑やかにして全ての部屋の電気をつけて明るくしてます。」

家族の話しを、こんなに素直に言えてる自分に驚いちゃった。

四人にも不仲だとは伝えてるけど…淋しい気持ちは言ってないの。

まだ両親の不仲が嘘みたいで…ホントの気持ちを話せない。

人に言ったら…認めたことになりそうで…。

先生ってどうしていつも…私の心の奥が分かるのかなぁ。

笑ってても…ホントは凄く淋しい。

今日だって、ホントは淋しいって…気づいてるよね。

「オレだと、力になれない?先生は淋しくないって言ってるけど…
一人より二人の方がもっと淋しくならないよ。
時々、こうやって電話したら怖くならないから…。
先生に彼氏がいたら、マズイだろうけど…いないって言ってたからね。どう?」

どう?って言われても…嫌な訳ないよ。大好きな先生だもん。

でも…

先生はどうしてこんなに親切なの?

幼稚園で沢山助けられたけど…

甘え過ぎだけど、仕事場だから頼れた。

でも…今回のことは本当にプライベート。

たとえ同情からでも…迷惑かけれないよね。

「あの…お気持ちは…」

「あれ?誰か帰ったね。」

丁度「ただいま」って玄関の開く音がした。

「はい。妹が帰ったみたいで…」

「そっかぁ。じゃあ明日またかけるね。
さっき登録しないって言ったけど…ごめん、やっぱりさせてね。
じゃあ、おやすみ。」

あっ。

断る前に切れちゃた。

また明日?…
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