キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
そうして迎えたバレンタイン。

2月14日は、全ての女の子をウキウキさせる日なのかも。

昨日の電話でカップを渡すことを先生に告げてた唯はもちろん

通学途中の電車の中やホームでも、はしゃぐ女子高生達を目にしたし。

園でも、おませな女の子達が"今日帰ったらママと一緒にチョコを持って行くね"って

約束を取りつけていた。

そして

仲良し三人組も自分のことではないけれど…浮き足だって朝からソワソワ。

私の行動をさりげなくチェックしてる。

ホントは…

いつも唯の心配を、誰よりしてくれる四人だから

"カップとチョコを渡すよ"って伝えようかと悩んだけど…

先に話してからかわれると、怖じけづいて渡せなくなりそうだから…

先生に贈った後で話すことにしたの。

お昼のお茶を取りに行く時に、こっそり渡すつもり。

だって…

放課後だと絶対、みんなが見てるはずだもん。

保育中の今がチャンス!

先生の机の横に袋を置いて、目で合図したら…ニッコリ笑ってくれた。

部屋に帰って直ぐにメール。

"お礼のカップです。必ずうちに帰って開けてくださいね。"って送った。

だって…

顔を見て"チョコレートありがとう"なんて言われたら…

恥ずかしくて耐えられないし、みんなが見てたら大騒ぎだもん。

"仕事中にメールなんて‼"って怒られるかなぁ?ってドキドキしてたら

"ありがとう。帰るのが楽しみです。
夜電話するけど…四人で集まるって言ってたから、帰ったらメール頂戴。"

って直ぐにメールが届いた。

やっぱり、今までの先生と違うなぁ~って驚いちゃった。



夕方、いつものように彩ちゃんの家に集合。

今日はバレンタインだけあって、彼氏もちの三人は忙しいみたい。

それでも私の心配をしてくれて、こうして集まってくれる。

「一時間しかないから、ちゃっちゃと聞くよ!」

「ねぇ~唯ちゃん。先生から逆チョコもらった?」

「えっ!もらう訳ないよ~。
先生からもらう理由ないし…だって私の……」

「はいはい!片思いだよね!」

ドンドン仕切る梓ちゃん。

ホントにみんな、時間がないんだなぁ~。

こんなに急いでる時に話すのは、気が引けるけど…

タイミングを逃すと、内緒が長くなりそうだから

「あっ…あのね!
私から…渡したの!………バレンタインの…チョコレート……!」

「えっ!」

「うそ‼」

「まじ~ぃ⁉」

いつもは冷静な彩ちゃんまで、目を丸くしてる。

「あっ…うん……。」

「ってことは……。唯ちゃんが…告白したの‼」

「ええっ!まさか‼
あの…ね。お礼のマグカップと一緒に…チョコレートを付けて渡したの。」

「お礼って?」

興味津々の四人に、この間のバスでの出来事とカップとチョコを買った経緯を話した。

「先生、今頃…大興奮だぁ~」

「カップのプレゼントは…唯ちゃんの性格を知ってるから、おねだり作戦だろうけど…
チョコまで入ってたんだから!」

梓ちゃんと夏苗ちゃんの方が、興奮して見えるんだけど…

「い~や‼あれは絶対、作戦だね‼
チョコがもらえるように、わざとバレンタインの前にお願いなんてしたんだよ!
汚ない大人は…やだねぇ~!!
単純な唯ちゃんを、コロッと騙すんだから!」って

何やら、物騒な話しをしている海晴ちゃん。

彩ちゃんはただ、ニコニコ聞いてるだけだし。

さすがに、色違いのカップを買ったことは…伝えられなかった。

「ねぇ~唯ちゃん。手紙くらい付けたんでしょ?」

「うん。
でも、なんて書いたらいいか…悩んで…。結局"もし、気に入ったら使って下さい。"って
メッセージを入れたの。
チョコレートの話しに触れたら、鋭い先生に片思いが伝わると困るもん。」

「ええっ!"好きです"とは言わなくても…
もう少し何か書いたら良かったのに~」

心配顔の夏苗ちゃんにいたずらっ子の顔をした二人は

「だから良いんだよう~!
今頃、一人で唯ちゃんの気持ちを想像してるよ!」

「あぁ~楽しい‼
ねぇ~唯ちゃん。夜の電話で、聞かれたら…なんて答えるの?」

「ええっ!聞かれるかな?
お礼のカップと一緒だから…義理って思って…なにも言わないって思ってたのに…」

「まぁ~チョコをもらったことを、気に止めてなかったら義理だと思うだろうけど…
唯ちゃんのチョコなんて…気にするでしょう。」

気持ちがバレちゃうの⁉って焦る唯に

「ねぇ唯ちゃんはホントに内緒にするの?一生片思いするつもり?
それとも…先生が誰かを好きになって、結婚したら諦めちゃう?
私もそうだから、それでもいいんだけどね。
もしも先生が、チョコのことを気にかけてくれたら…義理にしなくても
いいんじゃない?
もちろん、唯ちゃんが決めることだから…憧れで終わらせても、いいけどね。」

いつもより、ハッキリ言葉を伝える彩ちゃんにびっくり。

一時間を少し回った所でお開きになったけど…

家に帰っても、さっき彩ちゃんに言われた言葉が頭に残ってて

なかなか"帰りました。"のメールを送れないでいた。

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