キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
9時を過ぎた頃、先生から
"まだ帰ってない?都合の良い時にメールして。
遅くなっても良いからね"ってメールがきた。

ずっと待たせる訳にいかないから電話したら

「お帰り、今日は遅くなったんだね。」って…

「あっ…いえ。一時間位で解散したんですけど…色々あったから…」

「えっ!大丈夫⁉」って心配かけちゃった。

ホントは…色々な気持ちがって伝えないといけないのに…

「今日はありがとう。マグカップ、綺麗な色だね。
誕生日のペンダントも上手いし、センスが良いんだろうなぁって思ってたけど…
ホント、凄く良い‼ 大切に使わせてもらうね。
後…チョコもありがとう。嬉しかったよ。あれって…オレがもらって良かったの?」

「あっ…はい。先生に買ってきたので…もらってください。
いつもお世話になってる先生に…お礼の…気持ちです。」

「それって、バレンタインが近かったからチョコも一緒にってことだよね?」

「あっ…えっと…。あの…そう…かなぁ?……。」

さっき彩ちゃんに言われたからか…「はい。」とはいえなかった。

心の中があやふやして困る。

もちろん"好きです"って伝えられるほど…強い気持ちで贈った訳じゃなくて…

でも、義理って言われると…違ってて…

こんな気持ちで贈っちゃあダメなのかなぁ?
昔と同じことをしてる??

「あの…先生…。」

「なに?」

「あの…チョコレートは…えっと…義理とか…そんな雑な気持ちじゃなくて…。
ホントに…感謝の気持ちで…」

「わかってるよ。
このチョコレートは…オレに買って来てくれたんだよね。」

「先生にって言うか…。先生にしか買ってません…。
あの…ホントに…お礼の気持ちで…義理とか…流れとかではなくって…えっと…」

どう伝えたら、唯の気持ちが届くんだろう?

言葉にするのが難しくて、困っていたら

「ねぇ~先生。もしかして…四人に何か言われた?
別に、バレンタインは彼氏や好きな人にだけに贈る物じゃないよね?
友達やおとうさん。先生や女の子同志。中には自分に贈る人も。
そりゃ~"好き"って気持ちでもらったら嬉しいけど…好きにも色々あるからね。
先生が感謝の気持ちで贈ってくれたのは、嬉しかったよ。
仕事の同僚としてでも、好意がなかったら贈ってくれなかったでしょ?
先生は考え過ぎ。物事を難しくし過ぎだよ!」

そっかぁ~。先生には、ちゃんと伝わってたんだぁ。

良かった。

また失礼なことをしてしまったのかとドキドキしちゃた。

そうだよねぇ~。好きにも色々あるんだよね?

もしかして…これも、本物の恋を見つけるレッスン?

だったら…どんな好きで先生にチョコを贈ったんだろう。

自分でもっと分かったら、本物の恋に近づけるのかなぁ?

…………………先生に贈ったチョコは…決して義理じゃないの!もっと…心を込めたもん。

でも、告白して彼女になりたいのかって言われると…違う気がする。

憧れて尊敬してて…私にとっては、雲の上の人。

だったら…どうして片思いの先生に心を込めて贈ったんだろう?

どんな気持がこもってたのかな??

自分のことなのに、分かんない。

「もしも~し。先生~聞いてる?」

「あっ!すみません。…ちょっと、考え事してて。」

「考え事って…ご両親のこと?」

心配声の先生。

「あっ…いえ。あの…えっと…恋?…のこと?」

「はぁ⁉恋‼
何が分からない?…二人で探そうって言ったでしょ?
分からないなら、オレに聞いて!」

えっ⁉聞いても良いの?

先生は協力するって言ってくれたけど…ホントに良いのかなぁ?

「あの…ホントに良いんでしょうか?」

「もちろん‼むしろ聞いて!」

「あの…今から聞いても…」

「あぁ良いよ。何が分からない?」

いつになく、急かされているような……。

「あの…私…。ホントに分からないから…上手く伝えることも言葉にすることも…
出来ないかもしれませんよ。」

分からないことが分からない今、ちゃんと言葉にする自信がない。

ホントは…もう少し考えて、まとまってから話すべきなんだけど…

恋なんて…小説の中の出来事だったから…

自分一人で答を導き出せそうにないの。

「うん、いいよ。元々先生は、言葉にするのが苦手だから
気にせずゆっくり話してごらん。何が知りたい?」

「あの…片思いの人がいて…」

「ええっ!片思い⁉
…ちょっ…えっ!…誰が??」

「あっ!…友達です。」

「あぁ…お友達…。」

「それで…ですね。その子が…感謝の気持ちを込めて…贈り物をして。
でも、あの…」

はぁ⁉感謝の贈り物したお友達?って…

えっ⁉…片思い…

思わず口元が緩む先生は、笑いが漏れないよう細心の注意をはらって

唯の拙い話しの続きを待っていた。

「えっと…片思いだから…好きな人で…。
あっ!でも"好きです"って…告白したいなんて…全く考えてなくて。
ましてや、彼女になりたいなんて…思ってなくて。
…って言うか、ホントは…恋なのか憧れなのかも…分からなくて。
そんなあやふやな気持ちのまま贈ってしまったから…悩んでて。
贈った気持ちは…恋なのか、憧れなのか…どっちなんでしょう?」

友達の話しだと言いながら…今日、自分がした行動を話す唯が

可愛いくて愛しくて…

まだ恋をしらない唯のことを見守ろうと思っていた。

「それって、先生のお友達の話しなんだよね?
オレは、その人のことをしらないからハッキリしたことは言えないけどね。
きっと…"感謝の気持ち"と"好きの気持ち"…二つとも入ってたんじゃないかなぁ?
どっちが沢山かはわからないけど…
贈り物を選ぶ時って、相手を思い浮かべたり自分の気持ちを少し入れたと思うんだ。
だから、もしかしたらプレゼントの中に正直な気持ちが入っているかもしれないよ。
選んだ物やその時の気持ちを思い返してごらんってお友達にアドバイスしてみて。」

唯の気持ちに、唯より先に気づいた先生。

告白して、私の気持ちが恋だと教えようかと悩んだけど…

唯の心が育つまでもう少し待つことにしたみたい。

「あの…先生?
先生って…甘いものは大丈夫でしたか?一応アルコールの入ったチョコにしたのですが…。
後、マグカップは…先生のイメージで…
海とか空のようなブルーを選ばしてもらったんですけど…」

さっきまで、お友達だって言ってたのに…もう忘れて…。

"甘いものは大丈夫ですか?""海とか空のイメージです"って…告白⁉

オレ的には、バレンタインのチョコが欲しいなんて言えないから…

意識してほしくて、マグカップをお願いしたのに。

チョコをもらうどころか、唯ちゃんの気持ちまで聞けて…大収穫だよ!

電話やメールを嫌がらなくなったけど…

一人で淋しかったからなんだろうなって思ってたのに…

まさか‼オレに片思いなんてね。

いつからだ?

「チョコ…ホントに嬉しかったよ。
海とか空って…照れくさいけど…先生が一生懸命選んでくれたのが伝わってきたよ。」

先生の気持ちを…

自分と向き合うことに必死だった唯には…聞こえてなかったの。

…………えっと…。

チョコは…バレンタインだから贈ったでしょ?

…ってことは…先生が好き?

憧れ?それとも…

「チョコやカップに心を込めたってことは…
感謝よりも…好きの方がいっぱいって事で…。
でも……付き合いたいとか彼氏になって欲しいとは…思わないけど…」

オイオイ、天然ちゃん。

あなたの思いは全て言葉になってますよ。

好きを意識し始めてくれたけど…

付き合うとか彼氏は…まだかぁ~。

「先生が他の人と電話するのはちょっと…嫌かなぁ~。
後、他の先生達のサポートをするのも。
唯だけが良いなんてワガママは言えないけど…。」

いつの間にか、大胆告白をしているなんて…全く気づくこともなく

一人で悩んでいたら

「先生。恋は…見つけるんじゃなくて…育てるものなんだよ。
初めは"この人が好きだ"って…見つけるって言うか気づくんだけど…
その後は、片思い、両思い。どちらも、自分の気持ちを育てていくものなんだよ。
だから、
直ぐに答を出そうとせずに、ゆっくり先生のペースで悩んで育ててごらん。
いつかもっと育ったら…きっと答が出るから。」

「あっ、そうかもしれないですね。
この間、彩先生にも言われたんです。
ゆっくり考えたら良いって。
いつか自然に答が出るって。」

「うん。オレも焦らないようにするね。
見守るから。」


爆弾発言をしたことも、先生の優しい決心も…

唯は全く気付いてなかった。
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