キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
好きです。
下に見える車に…心の中で話しかけたら、思った以上に時間がかかったみたい。

電気を点けて車に戻ると、ハンドルに頭を預けて眠る先生。

お仕事して、ドライブに行って…

ずっと運転していた先生は…疲れてるよね。

"早く帰してあげないと‼"って思うのに…淋しいなんて、ワガママな事を考えちゃう。

「…先生。」

窓を叩いて声をかけたら、直ぐに目を覚まして笑ってくれた。

「ごめん。さすがに今日のことを考えたら…昨日は寝れなくて。電気点けた?」

「はい。…あの…コーヒーでも入れましょうか?上がりますか?」

「えっ⁉………。」って…困った顔の先生。

"オイオイ!……この子の天然に…オレはいつまで我慢が出来る??

初デートを友達に付き合ってもらったのに…。一人っきりの家に彼氏を上げようとして…。

オレはこれから…どれくらいの忍耐を強いられるのかなぁ~。"

先生の心の声は聞こえることもなく

唯の頭の中は、上がってもらう準備でいっぱいだったの。

「唯ちゃん、ありがとう。コーヒーは魅力的だけど
今日は遅いから、お邪魔するのはまた今度にさせてもらうね。
それより外は寒いよ。乗っておいで。
妹さんが帰って来るのを、ここで待ってよう。」

助手席を指してニコッとする先生。

「あっ…でも…先生、疲れてるから…。一人で留守番します。
今日は電気が点くまで先生がいて下さったから…怖くなかったです。
ありがとうございます。
妹は何時になるか分からないから…先生は帰ってご飯を食べて…休んで下さい。」

「いいから乗って。
毎日ここにきて、誰かが帰るまで待つのは…さすがにちょっと無理だけど。
今日くらいは、一緒にいさせて。
ねぇ~唯ちゃん。お腹空かない?コンビニでも行く?」

「いえ…私は大丈夫ですけど…。先生はお腹空きましたよね?
そういえば…先生って…実家ですか?それとも…独り暮らし?」

「?…独り暮らしだけど…。」

「夕ごはんは、どうされてますか?自炊?」

「う~ん。自炊って言いたいけど…コンビニか外食。たま~に、ラーメンは作るよ。
……インスタントだけどね。
どうも男一人で作って食べるのは良いとして…片付けるのが空しい気がするんだよね~
まぁ美味しいものが出来ないって言うのが一番の理由だけどね。
だから、次のデートで唯ちゃんがお弁当を作ってくれるのがホントに嬉しいの。」

器用な先生がラーメンくらいしか作れないって…意外。

でも…いつもコンビニや外食だと…偏るよね?

「あの…だったら、お弁当を作っても良いですか?
先生は、ここで眠ってもらったら良いので。コーヒーも車に運んだら
飲んでもらえますよね?……ダメですか?」

首を傾げて聞いてみたら

「いや~。…ダメってことは…ないんだけど…。予想外で…。う~ん。」

まだブツブツ言う先生を残して、急いでお弁当作りに取り掛かった。

あまり時間がないから、朝のお弁当の残りをアレンジして

後は、今夜のおかず用に用意していた唐揚げとポテトサラダを入れて

ご飯はオムライス。デザートの苺とキーウイを入れたら完成!

車に持って行くと、シートを倒して寝ている先生が見えた。

あっ⁉寝てる!………可愛い。

普段見ることのない無防備な先生の顔に、思わず写メを‼

カシャッ!

思ったよりも、大きな音が響いて………起きちゃった。

メッ!って睨むマネをして、入るように勧める先生。

「こらっ!誰が勝手に写メ撮って良いって言ったぁ~‼
な~んてねっ。お弁当作ってくれたから許しちゃうけどね。
でも…待ち受けは、ダメだよ!四人がうるさいからねっ。
うわぁ~!良い匂い。帰るまで我慢が出来るかなぁ?
ホントに作ってくれたんだなぁ~。
ねっ!開けて良い??」

膝に置いて包みを広げたら、プーさんとキティちゃんのお弁当箱。

笑われちゃったぁ~

だって、こんなのしかないもん。女の子の家なんてこんなもんだよ。

プイっと膨れたら

「ごめんごめん。嬉しくて。
すんなり作ってくれたから、彼氏に作りなれてるのかと思ったらキティちゃんだったから。
うわぁ!ホントに旨そう!この匂いが家庭って気がする。
おまけに、唯ちゃんの手作りなんて‼
さっきまで、想像すらしてなかったことだよ!
あぁ~‼幸せ~!」

そう言うと、唐揚げを一つ摘まんでポン!って口に…。

「うん!うまい‼帰るのが楽しみになった。ありがとう。」

ニッって笑う顔は、今まで見たどんな顔とも違ってて…

もしかして、これは彼女だけが見られる笑顔かな?って思うと嬉しくなった。

「あの…先生?一つ聞いても良いですか?
えっと…彼女って…何をしたらいいですか?どうしたら先生が嬉しいのか分からなくて。」

「ありがとう。そうやってオレのことを気にしてもらえるだけで嬉しいよ。
お弁当もオレのことを気遣ってでしょ?
ホントは今日、OK がもらえただけで最高なんだ‼
無理だって…覚悟してきたからねっ。」

「えっ⁉でも…唯が好きなこと…知ってましたよね?」

「あれっ⁉気づいてたぁ?」

「はい。……四人に聞いたんですよね?…言わないって約束してくれたのになぁ~。」

「四人には聞いてないよ。聞いたのは…唯ちゃんから!」

「えぇっ⁉唯??
そんなこと…言ってないですよ⁉」

「ううん。言ったの!
バレンタインの日。"友達がお礼をして、チョコを渡して。片思いをしてる"って…。
でも…その日、オレも同じようにチョコとお礼のカップをもらってた。
こんな偶然ないでしょ?…だから、ピン!っときたの。」

「えっ。だったら唯はバレンタインに告白してたんですか?」

「まぁ告白とは違うけど…気持ちは教えてもらえたよ。」

「だったら…今日、無理だなんて思わなくても…」

「う~ん。普通の子だったら"付き合える"って思うけど…。
唯ちゃんだからねっ!
現に"唯の好きは、片思いの好きだから。"って泣かれちゃったしね……。
"好き=付き合う"って考えが、唯ちゃんの中にないだろうなぁって思ったから。
だから……。ホントに嬉しい。
彼女だからとか…難しく考えなくて良いよ。今のままで十分。」

びっくりすることばかりで…今日はおかしくなりそうだよ。

俯いて、先生に言われたことを思い返していたら

直ぐ後ろに、黒の車が止まった…。

バタンッ!

ドアの閉まる音に振り向くと……

尋ちゃんが降りてきて…男の人と…

キスをしたぁ‼

……………………。…………………………………………………。

きゃーっ!

びっくり‼

目をパチパチさせて先生を見たら……頭を撫でながら笑われた……。

妹のキスシーンにドキドキしている間に

彼氏と別れて先生の車の横を通り抜けようとした尋ちゃん。

「あれっ⁉おねえちゃん?」って声を掛けられた。

慌てて降りて「おかえり」って声をかけたら、先生も降りて来てくれた。

「えぇっ!もしかして彼氏⁉」びっくりする尋ちゃん。

きゃーっ!彼氏だって~

ちょっと前になったばかりなのに…恥ずかしいよぅ~。

ドキドキしながら先生を見たら…ニッコリ笑って頷いてくれたから

「うん。…彼氏。…あの…」

何て説明したらいいか困っていたら

「同じ仕事場で働いてる森です。唯ちゃんとお付きあいさせてもらってます。」って優しい笑顔で、尋ちゃんに自己紹介してくれたの。

「なんだぁ~。お姉ちゃんにも彼氏がいたんだぁ。
せっかく先生に"先生の友達紹介して"って頼んだのに。」

ちょっぴり不満そうにブツブツ言ってたのに…

急に生き生きと目を輝かせて

「あっ⁉彼氏さん。私や先生とダブルデートなんてどうですか‼
私、お姉ちゃんとやりたくて彼氏の紹介まで計画してたんだけど
彼氏がいるなら即、実行できますもんね!」って…

またまた、真ん丸目になった私に笑いながら

「ダブルデートかぁ~。面白そうだね。ねぇ唯ちゃんは、どう思う?
ホントは来週、唯ちゃんの友達四人を連れてデートする予定だったんだけど…
唯ちゃんも妹さんと一緒なら安心だろうし…行こうかぁ?」

「えぇっ!あり得ない‼
友達四人も連れてデートなんて聞いたことないよ‼
どうせお姉ちゃんが訳の分からないワガママ言ったんでしょ。
だったら来週、一緒に行きましょ。
わぁ!四人でデートって…楽しそう。
行くところは任せてもらって良いですか?先生と楽しめそうなところを
考えておきますから。日時は、先生が春休みになってからで良いですか?
私は卒業したから暇だけど、先生はもう少しお仕事だから。」

私を省いてあっさりダブルデートが約束されちゃった。

どうやら四人とのデートは中止みたい。

「うん、良いよ。お任せします。
ただ…、姉妹揃って彼氏を"先生"って呼ぶのはどうかと思うから
その点だけは、二人で話し合っておいてね。」

ニッコリ笑って「じゃあ。」って尋ちゃんと先生は別れた。

「ホント、話しに聞いてた通りしっかりした妹さんだね。唯ちゃんとだったら
一年かかっても決まりそうにない事が、あっという間に決まっちゃったねっ。
勝手に決めたけど…良かった?
まぁ初デートで四人にからかわれるより、妹さんと一緒の方が良いかもね。」

「はい。先生は…良かったですか?」

「オレは二人で出かけるのが嬉しいから大丈夫だよ。
妹さん、夜ご飯待ってるんじゃない?後は電話で話そう。
お弁当ありがとう。」

先生を見送って、尋ちゃんと二人遅い夕食を食べながら

今日あったスゴい出来事を、思い出していた。



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