キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
「ねぇねぇ~聞いてぇ~!今日はバスから降りたら
たっ君が"せんせ~ぃ"って一目散に抱きついて来たんだよぉ。」

「えぇ~うちの優ちゃんは"せんせ~プレゼント~"って似顔絵描いて来てくれたもん!ピンクのドレスだよぉ」

仕事を終えると、ジュースとお菓子を持って

一人暮らしの彩香ちゃんのお家に集まるの!


ゴールデンウィークのドライブで意気投合してからは

"同期で助け合おう‼"と毎日5人一緒に過ごしている。

五人だと苦手な事もフォローし合えるから、製作の準備や踊りの振り付けを

皆でしている。

次の日の用意を終えると、後はお菓子を片手にダラダラ。

そうなるともうクラスの話題が一番盛り上がる。


皆それぞれ夢を持って就いた仕事…。

情熱もひとしおだから、自分のクラスの子供がとにかく一番可愛いの。

いくら話しても話し足りないくらい。

いつもなら私も参加するんだけど…


「ねぇ~そう言えば…和香ちゃんバスに乗ってなかったんだけど…お迎え??」って…

………この話題が嫌で、今日はあまり加わってなかったんだけどなぁ。

「…乗せ忘れ…」

…………………………………………………………………………………………。

「あぁ~ごめんっ!!…気にしてた??」

「うそ~!!だったら…後から送って行った!?」

「えぇ~!良いなぁ~。先生と二人っきり??羨ましい~」

「ねぇ~。森先生って良くない?」

「いいよねぇ~‼大人の魅力って感じがして…」

「頼りになるよね。」

「優しくて気さくだし。」

「なのになのに!!他の男みたいにがっついてないし。紳士だよね。」

「そぅ~それそれ!!紳士紳士!!」

「お兄ちゃんに欲し~い。」


四人は先生の事をべた褒め。

最近集まると、子供自慢と同じ頻度であがるこの話題は…今の私の悩みの種。

先生の事を"怖い"意外感じたことがない私には

"そうそう!"なんて相づちを打つことが出来ない。

だから和香ちゃんの事だって言わなかったのに…。

先生と二人っきりなんて、ホントに羨ましいなんて思うのかな?

ため息ばかりだよ?




一人でぼぅ~っと、ミルクティーの氷が解けるのを眺めていたら

「起きてる?」って

新しいコーヒーを入れて帰って来た彩ちゃんに声を掛けられた。



身長165㎝の彩ちゃんは、150㎝未満の5人の中ではお姉さん的存在。

私と夏苗ちゃんと海晴ちゃんは、1㎜を本気で争う程小さくて

身長に比例して精神年齢もかなり低め。

賑やかな二人といつもぼぅ~っとしてる私を先生のように…ってホントに先生だけどね。

仕事の延長みたいにお世話してくれるの。


「唯ちゃんは先生が嫌いだもんねぇ~」

「まぁ、まだお子ちゃまだから大人の魅力には気付きませ~ん」

「早い、早い。キスもまだだもんね!」

「うわぁ!H~」

「ねぇ~アズの彼氏ってキス上手い⁉」

相変わらず騒がしい二人に彼氏持ちの梓ちゃんも加わって

三人は先生の話しから恋ばなに移ったみたい。


「唯ちゃんはホントに先生の事が嫌い?」

彩ちゃんに優しくされるとホッとする。

明るい三人は、賑やかで楽しいけど…一度も声を出さないで

お開きになっちゃう事もあって。いなくて良い?なんて…

積極的に話さない自分が悪いのに…ついいじけちゃう事もあるんだよね。


「嫌いなんておこがましいよぅ。ただ…苦手…かな??
失敗の多さもダントツで…迷惑かけてるから仕方ないんだけど…先生は唯の事嫌いだから…怖くて近寄れないの…」

「そう??先生は唯ちゃんの事嫌ってないと思うけどなぁ~」

意外な答えにびっくりしてたら…彩ちゃんがこっちをみて笑ってた。

嫌われてない?

ホントにそうかなぁ~??

う~ん…信じられない。

彩ちゃんは、ウンウンって頷いてる。


唯にはわかんないよぅ~


……人の気持ちを理解するのって苦手。

見えないものをどうやって見たら良いんだろう?

見えないから怖い。




窓の外に半分だけのお月様。

まるで唯の心の中みたい。

まんまるにしたいのに…後、半分何かが足りなくて不安。

仕事も…人間関係も…中途半端で情けない。


人と関わるのは苦手。

何を求められているのか、何をしたらいいのか分からなくなるから。

でも…人は好き。

一人でいるのは怖くて苦手。

誰かの話しをウンウンって聞いてるのが一番楽しい。

って言うか…楽…。

ずるいよね、こんな考え。

男の子に対してもそう。

「付き合おう」って告白されて、人並みに付き合った事もあるけど…

自分から"会いたい"って思った事がないの。

…恋って…よくわからない。

学校から一緒に帰ったり週末にデートしたり、毎日電話で話したり

皆と同じ事をしているはずなのに…やっぱりわからない。


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