キンダーガーテン    ~温かい居場所に~
「おはようございます。タンポポ幼稚園です。
あっ今日は風邪ですか?…悪いですねぇ~。
園バスの方には伝えておきます。お大事になさってあげて下さい。失礼します。」

電話を切ると、またコール。

「はい。あぁ~悪いですねぇ~。そうですかぁ。
2,3日お休みですね。分かりました。バスの方には伝えておきますね。失礼します。」


職員室一番乗りの私は、朝は決まって電話番。

事務の先生が来られるまでは、早く来た先生が受けることになってて

失敗の多い私が出来る、唯一の恩返しだと思っているの。

他の先生たちより早く来て電話番をしたら

先生たちが安心してゆっくり来れるから。


「はい。おはよう…」

「あぁ‼唯ちゃん‼」

受ける唯の声に被せて、元気な声が受話器から漏れてくる。

「梓ちゃん?おはよう」

「今朝、当番ある⁉」

慌てる梓ちゃんに挨拶は無用。

「無いよ。帰りはあるけど」

「ラッキー‼助かったぁ~!!」

週に2度は聞くこの会話。


梓ちゃんは唯と同じ学年担当の"年少パンダ組の担任"

お部屋がお隣同士だから話す機会も多くて、今一番の仲良しさん。

失敗の多い私のことを、笑ってフォローしてくれる明るい友達。


付き合って3年になる彼氏とは、お泊まりデートもしちゃう大人の面もあるの。

ただ、仕事より彼の方が大切な困ったちゃん。

週明けにかかる電話も、もう慣れっこになっちゃって。


「もしかして?」

「そうなのぅ~
昨日彼と遠出のドライブしたら遅くなっちゃって…寝坊したんだぁ
遅刻はしないんだけど…バスって早いでしょう?間に合わないの。
乗ってもらって良い⁉」

イヤイヤ…バスに乗れないのを遅刻って言うのでは?


なんて、心の中でツッコミを入れつつ

「仕方ないなぁ~
まぁ、そのために早く来てるから良いんだけどね!いいよ!何バス?」

「それがねぇ~
今朝は…大型バス…」

えぇ‼…大型バスかぁ…


園には、大型バスが一台小型バスが二台の計三台ある。

大型バスは、とっても苦手な…森先生。


渋る唯に

「ホント…ごめん!…お願いします‼
苦手なのは、よ~く分かってるんだけど…今日だけ‼」


実はこの"今日だけ‼"は、大型の度に毎回なんだけどね。

当番を代わる事に抵抗はないの。

むしろ、先生たちの役に立てて嬉しいくらい。

ただ…。

大型バスとなると話しは別‼

自分の当番だけでもドキドキで…なるべく当番が廻ってきて欲しくないのに

プラスで乗るなんて。


とは言っても…

私以外の先生は未だ来てないし、出発までの準備を考えたら…

乗るしかない?


「チョコレートのお土産付きね!」って答てしまう。

「はい。必ず持って行きます‼ありがとう~」

現金なもので…当番の代わりを見つけたら、さっさと切っちゃった。

私もお休みの子をチェックして、ミスがないようにしなくっちゃ‼

代わって失敗したら、目も当たられないもんね。

気をつけないと‼



今日の先生…機嫌が良いと良いなぁ~。




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