足らない言葉に愛を込めて
『前も言ってたな。お前本当は、俺とは友達でいたかったって』
だってずっと前から友人としてじゃなく一人の男として哲のことが好きだった。だからその場のノリじゃなくて誰でもいいんじゃなくて、私がいいのだと言ってほしかった。
哲が悪いんじゃない。哲が私を好きなのと同じようなぬるい温度であなたを好きでいられない私がダメなんだ。
「ねえ哲。哲はなんで私と付き合おうと思ったの」
『………俺みたいな奴に愛想尽かさずにいてくれるのはお前くらいだろ』
「じゃあ……じゃあどうして転職のこと、もっとちゃんと話してくれなかったの」
言いたくなかったのに、堰を切ったように責める言葉が溢れていく。
「私まだ、哲がどこに転職したか知らないんだよ?年内いっぱいでマンション引き払うのも聞いてなくて………すごいショックだった……哲は大事なこと、私に全然話してくれてない」
哲が「俺たぶん今の仕事辞める」って言ったとき、応援したい、支えたいって思ったのに。
「哲はなんでも一人で決められて一人でも全然大丈夫だから……私のこと、いらないんじゃないかって……そう思ったら………苦しい」
深い溜息が聞こえてくる。どうやら今日が恋人最後の日になるのかもしれない。視界一杯に夜景を映しながらそんな覚悟していたら哲がぼそっと『俺のこと、どうでもよかったわけじゃないんだな』と呟いた。
「私、彼女だよ?哲のことがどうでもいいわけないよっ」
『けどお前、こっちが仕事忙しくて約束すっぽかしてもいつもいいよって簡単に流すだろ。……でも今日は待ってろ。来なくていいなんて言うな。忙しいだろうとか遅い時間だからとかって、今日だけはそんな風に俺に冷めてないで、期待してくれないか』
そのときベルが鳴り電話からも同じ音が重なって聞こえた。
「入れてくれるか?」
慌ててドアを開けると哲がいた。でも哲が突然現れたこと以上にその両手に抱えられているものを見てびっくりした。