足らない言葉に愛を込めて
「……プレゼン、きっと勝てるよ。でも気付いてる?哲はまだ私のこと、一度も好きって言ってくれたことがないんだよ?」
どうしても欲しい言葉があって催促すると、途端に「だからそれは苦手なのだ」と言わんばかりに顔を顰められる。不機嫌にしか見えないその顔は、哲がめいいっぱい困っているときの顔だ。
「………あのな。なんで男はこういう上等な部屋に恋人を泊めたがると思う?」
「彼女への見栄?」
「馬鹿。お前は俺の特別だって、そういう気持ちを知ってもらうために決まってるだろ」
クリスマスの約束に大きな花束、ロマンチックな部屋。どれも哲には似合わないものなのに、哲は私のために用意してくれた。それはつまりやっつけなんかじゃなくて、口下手な哲はこの素敵な贈り物に思いをすべて詰め込んでくれたということなのだろうか。
「いい加減、片思いを卒業させてくれ。お前がずっと俺の特別だったことに早く気付けよ」
普段なかなか気持ちを伝えてくれないくせに哲は少し苛立たし気に言う。でも哲も特別な人と特別な時間を過ごしたいって思っていてくれたらしいことが、震えるほど嬉しくて哲の顔も視界の端に見える夜景も涙で滲み始めた。
「だってそんなの、言ってくれないと分かんないよ」
「泣くなよ。………俺にはお前だけだ。俺と結婚してくれ」
そういって哲は指輪のケースを無造作に突き出してくる。折角シチュエーションはロマンチックなのにぶっきらぼうで、プロポーズは出来ても「好き」と言うことは出来ずにいる。頑ななくらいの哲のその不器用さが、それでも私にはいとおしい。指輪を見るのは後にして返事をキスに託して背伸びする。
素敵な夢が見られそうなベッドの上に二人で倒れ込むと、熱いひとときのはじまりを告げる甘い溜息がこぼれた。
<end>