古の姫君
第1章 銀色の光

- プロローグ





月に照らされる銀色の髪を揺らしながら、少女は満天の星空の中に落ちていた。

”何故自分は空から落ちているのか。”
”何故このような事になったのか。”

ただ少女は自分の不注意で自宅のベランダから落ちたはずだったのに。
どこか懐かしい空気に違和感を覚えながら、頭の中を強く叩かれているかのような頭痛に、何かを考える気力が失われていく。

パッとしない人生だった。
若者らしい楽しい生き方をすればよかった。

大した人生を歩んでいない人が死に行く時は、皆こんな気持ちなのだろうか。
5歳の時、記憶を無くし名前だけを覚えていた捨て子の自分を、孤児院の人が引き取ってくれてから、他人とあまり関わる事もせず大好きな読書や勉学に没頭する毎日を送っていた。
高校生になると自分でお金を稼ぎ、都内で一番頭の良い高校にも通った。
高校を出てそこそこ良い大学にも通って、将来の夢などは特になかったが、友人などいなくとも、そこそこ楽しい大学生活を送っていくつもりだった。
他人とあまり関わらないことがごく普通と言えた訳でもないが、自分なりに不便のない人生だった。
それこそ最初は、自分の銀色の髪や長ったらしい名前を疑問に思っていたが、歳をとるにつれて、少しずつ好奇心を持つ周りの目にも慣れていった。


でも、19歳という若さでこの世を去るだなんて。


少女は涙を流すまいと、瞼をゆっくり閉じると、だんだんと迫り来る死を覚悟に意識をそっと手放した。

< 2 / 5 >

この作品をシェア

pagetop