古の姫君
- 1. 月下
瞼の裏が明るくなったのを感じて、リディアはゆっくり目を覚ました。
”夢か。”
そんな事を思ったのもつかの間、見知らぬ天井が目に入り、リディアは顔をしかめる。
ふと手を動かしてみると、自室のベッドとは思えない滑らかな肌触りにリディアは慌てて上半身を起こした。
辺りを見回すと、まるでどこかの豪邸のような、と言うよりかは、城のような豪華絢爛なテーブルやカーテンにリディアは恐怖を覚えた。
「…私の家じゃない。」
ここはどこだろうと疑問を感じながら部屋の扉に目をやると、甲冑を着た1人の女が壁にもたれかかっているのが見えた。
部屋には全くと言ってもいいほど人の気配がなかったため自分1人しかいないとおもっていたが、綺麗なターコイズブルーと目が合い、驚きのあまり舌を噛みそうになる。
「お目覚めですか。」
胸の前に組んでいた腕を解くと、女は自分の元へゆっくりと近づいてきた。
普段なら感情をあまり表に出さないリディアだが、今回はさすがに警戒心を剥き出しにする他なかった。
まるでトラのように警戒するリディアを見て、女は面白おかしく感じたのか、口元を綻ばせた。
「私はエマ・オウエンス。そんなに怯えることはありません。貴女は…リディア・セレステ・ルーリッヒ様で間違いございませんね?」
なんで私の名前を。そう問いかけようと口を開いたが、低くて透き通った威圧感のある声と、エマの背後の扉が開く音で、その言葉は口に出す前に遮られた。
「エマ殿…。」
またもや甲冑を着た赤毛の男が部屋に入ってきたと思うと、緑の瞳はリディアをとらえ、静止した。
男は一瞬困惑したような表情を浮かべたが、次の瞬間にはまるでリディアを安心させるかのように優しく微笑んでいた。
(誰なの…この人たちは?)
「目が覚めたのですね。」
男はエマとアイコンタクトを取ると、もう1人の白髪の男を後ろに連れリディアの元へ歩み寄る。
「私の名はジオラルド・ラッセル。そしてこの方はアベル・シャミナード様で、国王陛下のご側近でございます。」
「国王陛下って事は……………王様?」
ジオラルドの後ろから隣へと場所を移動させたアベルを見つめながらジオラルドの言葉を繰り返す。
国王陛下から王様という言葉に繋がるまでの時間は、とても長く感じられた。
あまりにも唐突すぎる状況に、どう対処していいのか分からずリディアはひたすら思考を巡らせた。
自分のいた場所は日本のはずなのだが、陛下という言葉や日本人とは思えない名前と顔つきに、頭の中に沢山の疑問が浮かび上がる。
日本の、ましてやマンションのベランダから落ちただけなのに外国にたどり着くのは到底あり得ない話だ。
いや、そもそも日本語が通じている時点で外国ではないのか?
もし仮に此処が日本だとしても、日本という国に国王やこんな甲冑を着た人たちがいるわけがない。
となると此処は一体…?
頭の中に募っていく疑問符を消そうと試みるが、どうも答えが見つからなく、リディアは悶々と頭を悩ませた。