想いはシャンパンの泡とともに
恋人だった聡(さとし)と知り合ったのは、短大卒業後入社した商社でだった。
先輩として何くれとなくフォローし優しい彼に惹かれたのはすぐで、入社した年の忘年会で突然告白され、すんなりOKしてお付き合いが始まった。
男性と付き合うことが初めてで不慣れな私に、彼は優しかった。たとえ連絡は彼からしかダメで、デートはいつも私の家かホテルでも。ここ1年は月に一度気まぐれに家に来ればいい方で、ただ抱かれるだけでも。彼のぬくもりを感じるだけでしあわせだった。
たとえ社内で彼が社長令嬢と付き合っていると噂されても。
彼が街で社長令嬢と二人微笑みあいながら宝石店に入ったところを見ても。
信じたかったし、信じたくなかった。
“美雪が好きだよ”
たったひと言、気まぐれに言われただけの言葉でも。それが真実だと信じたかった。
だから。
“もしも私が好きなら来てください”と、最後の賭けのつもりでこの約束をした。
今日の為に最大限の努力をして、自分を磨いて最高のお洒落をしたのに。
結局、彼が選んだのはモデル並みに綺麗な社長令嬢だった――。
じわりとあふれそうなものを抑えるために、ギュッとまぶたを閉じた。