君のまなざし
酒も進み、皆の舌もなめらかになり始める。
体育会系の集まりだが、若い野郎ばかりだから徐々に遠慮もなくなり次第に『給料が安い』『彼女が欲しい』なんて話になる。

今夜は上司がいない飲み会。
いや、俺や柴田と山田がいるが、俺たちも中間管理職でありたいした立場にないから上司がいないも同然。

「山口さんは彼女がいるんですよね。休みが合わないでしょ?うまくいってます?」
今年入ったひよっこトレーナーの木田が俺と山田のお代わりのレモンチューハイを持ってやってくる。

「何、ここの店のバイトでも始めたのか?うちの会社じゃ給料安いから?」
ニヤニヤしながら言うと
「いや、ここに俺の彼女がバイトでいるんですよね。先輩達イケメンの集まりだからあんまり彼女と接触して欲しくないっていうか…」
と苦笑いしている。

「はぁ?客商売なのに店員に客と接触させないとか、何だよ」
「いや、だって、俺の彼女はかわいいし。先輩達はイケメンが何人かいるし、筋肉質の身体もかっこいいし」
と本気で嫌がっているようだ。

「木田。お前、まだまだだなぁ。本当に若いね。」
と笑ってやる。

「あれ、そういえば柴田さんと山田さんも独身ですか?」

「この同期3人は独身だよ。お前らひよっこの世話が忙しくて結婚どころじゃねーんだよ。悪いと思ったら、早く一人前になれよ」
と言ってやる。

「うわっ、すんませーん。がんばりまーす」
とへらへら笑う木田は実に憎めないやつなのだ。
勉強熱心で手の空いた時間は他のトレーナーを質問攻めにしていたり、外部研修も積極的に参加している。

「柴田さんってプライベートが謎だって南が丘店の奴が言ってましたよ。山田さんはわかりやすいですけど」
「何で俺はわかりやすいの?」
「山田さん、最近彼女と別れましたよね?落ち込み方が尋常じゃないってみんな言ってます」
山田はビールジョッキ片手にフリーズ。
「山田、たぶんみんな気が付いていたぞ」

これは俺もフォローできない。
ひどかったのだ。本当に。

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