君のまなざし
「ちょっとトイレに行ってきます~」
ふらふらしながら木田が立ち上がった。
「おい、大丈夫かよ。ちゃんと戻って来いよ」
「はい、はい大丈夫れすよ」
本当に大丈夫かなと思って見ていると、
木田がいきなり隣との仕切りのふすまを勢いよくタンッと開けてしまった。
廊下に出る引き戸と間違えたのだ。
「ああっ、バカ、違う!」
遅かった。
隣の女性グループの楽しげで盛り上がっていたらしい雰囲気が一瞬にして凍りつく。
いきなり勢いよくふすまを両手で開かれたら驚くよね。
酔っ払いの男が乱入してきたかのような状況。
しーんとした女性グループの5人が呆然と木田を見上げている。
「すみません!木田!そっちは廊下じゃない!」
慌てて木田の腕を引っ張りこちらに戻す。
木田も驚いて「あわわわ」と変な声を出し腰を抜かして座り込んだものだから、女性達がどっと笑い出した。
「やだー、びっくりした」
「お兄さん大丈夫ですか?」
お酒が入ってるせいか笑い転げる子もいる。
「ああ、本当にすみません」
と謝って木田を立たせようとすると、
「あれ?山口さんじゃないですか」
「あー、本当だ。山口さんだぁ」
と女性達から声が上がった。
木田を引っ張りながら女性達の顔を見ると、先日高校時代の友人の結婚式で出会った笹森さんの職場の女性達だった。
そして、よく見ると1番奥の席にはニコニコと笑っている笹森さんがいた。