君のまなざし
「お客様、申し訳ございません。」
店員が声を掛けてくる。

在庫を切らしていて取り寄せになるという。

「また、このお店に来ないといけないわけですね…」
うなだれる。

「ふふふっ。よかったら、またお付き合いしますよ」

「いいんですか?本当に?」

「はい」

何てことだ。
また、一緒に来てくれるなんて。

取り寄せの為の伝票記入をし会計を済ませラッピングをお願いして店を後にした。

「お時間があれば、コーヒーでもごちそうさせて下さい」
少し勇気を出して誘う。

「えーっと、あと30分位しか時間がないんですけど、それでもいいかしら?」
笑顔でOKをもらった。

モール内のインテリアショップを兼ねたカフェに入る。

テーブルや椅子など全てを購入することができるらしい。各テーブル毎にコンセプトが違う。

ダイニングテーブルのような大テーブルの席もあれば、ホテルのラウンジのような席もある。もちろん普通の対面の2人席や4人席もあるが、テーブルと椅子は違うテイストっセットされている。

案内されたのは3人掛けのソファー席だった。
ソファー1つにテーブル1つ。
カップルシート。

「こちらでよろしいですか?」

絵里子さんの顔をチラッと見て
「いいですか?」と聞くと「はい」と店員に笑顔を見せた。

隣り合って座ることにドキッとする。

「こういう席は初めてです。カップルシートなのかしら?私が相手でごめんなさいね」

「いえ、俺も初めてですけど、光栄です」

「でも、彼女さんに悪いわね」

「ああ、うまくいかなくて別れました。以前の飲み会でも言ったのでご存じかと思ってましたよ」

「そう、そうだったんですか。ごめんなさい、余分なことを」

「気にしないで下さい。お互い納得の形だったんで」
彼女への視線を外してコーヒーを飲んだ。

そうか、絵里子さんは俺と彼女が別れたことを知らなかったのか。飲み会の席でも言っていたから知っていると思い込んでいた。

さぁ、今日は絵里子さんに時間がない。
これからはぐいぐいと踏み込んでいくぞ。とにかく、先日の誤解を解きたい。
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