君のまなざし

決意

久しぶりに友人の武史のやっている小料理屋で１人で飲んでいたら茉優が来た。

「あの、ごめんね。この間」
「何？それ言うために来たの？」
久しぶりに会った茉優はいつもの自信満々な態度ではなかった。

「うん。ここの大将に『洋介が来たら教えて下さい』ってお願いしてたの。アパートに来られても嫌でしょ？電話は着信拒否されてそうだし」
「…そこまではしてないよ」
思わず苦笑した。

「でも、されても仕方ないことしたしね、わたし。あの人のことも、洋介のことも傷つけた」
茉優はうつむいた。

「やけに素直っていうか、いつもと違うね。とりあえず、座れば？」
カウンターに座っていた俺の隣の椅子を引いてやる。

「座敷が空いてるよ」大将の武史が言うが
「結構です。ここで。」茉優は即答する。

「大将の前で話をした方がいいから。誰かに見られたりして後で誤解されたら洋介とあの人に悪い」
あれ？茉優ってこんな事を言う女だったかな。

俺の困惑が伝わったのか茉優が苦笑した。

「すっごい素敵な大人の女性だったね。いつの間にかいい人見つけちゃって」
「俺の彼女ってわけじゃないけどね」
返事に困る。

「え？彼女じゃないの？だって、結構ふたりでいるとこ目撃されてるよ」
「それって夜の繁華街でじゃないか？」
「うん、私が聞いてるのはそうかも」
「残念ながら、それ、デートじゃないな」
また苦笑する。

たまに祐也がホームにしている施設以外のボルダリングジムにトレーニングに行くことがある。
繁華街にあるから母子での夜の往き来が心配でボディーガードとして同行することがあるからそこを誰かに見られていたんだろう。

夜、繁華街の絵里子さんが借りている月極駐車場に車を置いて絵里子さんと２人で祐也を迎えに行く。俺が行けない日は鈴木家の次男の隼くんが行っている。
でも、ジムからは３人で出てきてるはずなんだけど。

「この間のバルじゃ、どう見てもデートだったけど？
彼女、指輪はしてなかったと思うけど、もしかして人妻とか？」
「いや、結婚してないよ」
「じゃ何で。あんな素敵な人を捕まえないの？あの人のことが好きなんだよね？逃したら絶対後悔するよ」
「ククッ、何でそんなに。あの人が気にいった？」

武史からもらった緑茶を飲みながら
「うん。私、反省したし、何か目からウロコ。あんなに格好良い女性がいるんだねー。綺麗に年取ってた。あ！おばさんって意味じゃなくて。年齢を重ねるってこと！」
慌てて言った。