君のまなざし
ひとり息子のつぶやき
ひとり息子のつぶやき
離れて海外で暮らす父親にメールした。
「親父、俺、そろそろ留学したいんだけど」
「いつから、どこで?もう決めたのか?」
すぐに返事が来た。
両親が離婚したのは俺が小学3年生の頃。
なぜ離婚するのかは聞いていない。
ただ親父が「お父さんと一緒に外国に行くか?」と聞いてきたから「やだ」って言ったっていう記憶があるだけ。
それから親父とは1年に1度本家のじいさんちで顔を合わせる程度。
そこには絵里子さんも一緒にいたり、いなかったり。
親父と会うと絵里子さんは少し悲しそうな顔をするから、絵里子さんに離婚の理由を聞いたことはない。
中1の時、絵里子さんは体調を崩してじいさんちに行けなかったから、思い切って親父に離婚の理由を聞いてみた。
親父は息子の俺が見ても格好いい親父だ。
40代後半なのに若々しい。長身で色黒。切れ長の目は笑うと線のように細くなるけど、それがなぜか少年っぽく優しげに見える。
海外の会社で社長をしているんだから、金も名誉もあるってヤツだ。
だから、離婚原因は親父の女性関係、不倫かなって勝手に思ってた。
でも、実際は違ったらしい。
「絵里子の事が好きすぎて離婚した」
は?意味がわからない。
「お前ももう中学生だから言ってもいいかなって思ったけど、まだ早かったな」ふっと笑った。
「絵里子には俺の事だけ見ていて欲しかったんだよ。祐也が生まれてもさ。そばにいるのに絵里子が俺のこと以外を見るのが耐えられなかったんだ。祐也には悪い事をしたと思ってる」
「は?つまり?」
「お前や絵里子の仕事とか自分以外の絵里子の周り全てに嫉妬して離婚したって感じかな」少しうつむいて額に右手を当てて苦笑いしている。
「そんな人っている?自分の息子だよ」
「うーん、そうだよな。でもそれが事実。そんな自分の独占欲が嫌でさ。で、絵里子には離婚したい理由を話さずに無理やり離婚したんだ」
「はぁ?最低じゃん。何それ。母さんはそれで納得したの?」
思わず、絵里子さんじゃなくて母さんと呼んだ。
「しなかったよ、もちろん。だけど、頑なな俺の態度と当時の周囲の状況とかで俺が浮気か心変わりしたって受け止めたんだろうな。浮気なんてするわけないのに。でも、その誤解のおかげで離婚に同意してくれたってわけだ」