君のまなざし
母さんの怒りを買ってしまったクソタヌキこと泰三大叔父さん達は近い将来失脚するだろうな。
失脚だけで済めばいいけど、社会的に抹殺かもしれない。

自分のことにはあまり怒らないけど、自分の周りに手を出す輩を母さんは絶対に許さない。

しかも、今回は息子の俺に直接接触してきた。
さっき母さんが声をかけなかったら俺はヘタしたら拉致されていたかもしれない。
探りを入れていただけかもしれないが、会社の全権を欲している奴らはどのみち唯一の後継者候補の俺を放置しておくはずはない。

小学生の俺に手を出した奴らは親父が叩きつぶした。
実行犯は関連会社の幹部が集めたチンピラだったが黒幕は
笹森の亡き大伯父の妻の一派だった。

親父は海外赴任中で今がチャンスだと思ったのか、今度は大叔父の一派か。

翌週に母さんはそれまでずっと勤めていた病院を辞めて笹森の本社の健康管理部門に就職した。
それから社長のじいちゃん、専務の伯父さん、そして親父と頻繁に連絡を取り合っているらしい。

それから２年後、親族会議の場で母さんは密かにコツコツと集めたクソタヌキ常務一派の不正をお披露目し、奴らを一気に追いつめた。

怒り狂ったクソタヌキが母さんに詰め寄り、母さんの手首をつかんだところを反対に母さんにグーで殴られて鼻骨骨折したんだと伯父さんが笑って教えてくれた。

「すぐに絵里ちゃんを助けようとしたんだけど、その前に絵里ちゃんが殴ってたんだよ。いやー、いいストレートが入ってね。気持ちよかったよ」

それもう護身術じゃないね。
母さんは凌さんから護身術を習っていた。
その後、隼くんがノリノリで俺と母さんにキックボクシングを教えてたんだよね。

「私だっていきなり掴まれた手首が内出血したんだから、これって正当防衛よね」って母さんは言うけど、あっちは鼻骨を粉砕されてオペになったってさ。

笹森の親族だけでなく会社全体の目の上のたんこぶ的存在だった常務とその長男、その部下たちは自らの不正により失脚した。
不正経理、横流し、取引先でのセクハラ行為やらリベートやら次々と悪事を暴かれ大事件になったらしい。
水面下で探りを入れていた母に協力する社員が多かったと聞く。

社内の人間と健診の問診や健康相談の面談などで個人的に親しくなり、コツコツと人脈作りをしたらしい。
気が付けば会社には絵里子信者が沢山いたって話だ。


全く怖い女だ。

母さんは山口さんの留学中にこの騒動にケリを付けた。
山口さんは母さんはこんな女だって知っているんだろうか？
…いや、知っていても知らなくてもあの人は母さんの全てを受け入れて包んでしまうんだろうな。
実に懐の深い男だ。
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