君に、一年後の約束を。


「岳琉」

「間に合った」


息を切らしてその場に佇む岳琉の額には、うっすらと汗まで滲んでいる。


「なんで・・・」


だって、ここに居るはずはないのに。


「仕事、急いで終わらせた」

「泊まり、だったはずだよね」

「だな。でも、俺にとって大事な約束があったから、帰って来た」

「帰って来たって・・・」


そんな簡単な仕事じゃなかったはずだ。

だからこそ、泊まりの出張だったのに。
目の前の男は、なんてことないように余裕の表情を浮かべる。


「やっぱり、帰って来てよかった」


安堵の声と共に岳琉はグラスを持ち上げ、テーブルの上に置かれたままの私のグラスにカチリと合わせる。
そして、立ったまま一気にグラスの中身を煽ってしまった。

その行儀の悪さを咎める暇もなく、向かいの席に腰をおろす。


「俺を信じるつもりになったってことだよな?」

「え?」

「ここに来てくれたってことは、さ」


テーブルの上をコツコツと人差し指で示して、嬉しそうに笑みを浮かべる男。
岳琉らしくない無邪気な笑みを向けられて、天邪鬼が顔を出す。


「まだ、信じているわけじゃない」

「へぇ・・・」


頬杖をついて私の様子を窺う男に、気持ちを見透かされている気がして。
その気まずさから逃れるように、シャンパングラスに口を付けた。


「莉緒が、好きだよ」


不意に耳に届いた声。
その声に、不覚にも胸がぎゅっと締め付けられた。


「わ、私、」

「まだ、信じられない?」


真っ直ぐに向けられる瞳を見つめ返した。

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