聖夜にセレナーデ
諦められない心


ショパコンで1位をとった彼に相応しい、オールショパンのプログラム。

ある時は身体を躍動させ、

ある時は遠い向こうを見やりながら涙を流し、

またある時は静止して真摯に音と向き合う。

彼の内面が溢れんばかりに滲み出ていて。

こんな演奏、聴いたことがない。

きっと私には想像も出来ないような厳しくて実りある経験をいくつもして来たんだろうと思う。

堪らなくて私も涙を流す。

周りを見てみると、同じく涙している人がいる。

心洗われる音楽。

その程度のものではない。

一緒に喜び、一緒に怒り、一緒に哀しみ、また一緒に楽しむ。

彼はその過程を想像させ、一緒に経験させている。

いわば、彼は時間と感情を全て操作して私も含めて、聴いている人達に体感的に感じさせるように。

その先に聴く人それぞれの感情がでてくるのだと思う。

ああ、私、どうしたら良いの。

酷いよこんなの。

だって、貴方のピアノが大好きなんだ。

幼稚園に通ってた頃、隣で聴かせてくれたあの時から、ずっと貴方のピアノが大好きで、貴方のことが大好きなんだもん。

連絡が出来なかった間もずっと貴方の事を思って録音してくれていたCDをすり減るくらい聴いていたんだよ。

辛い時に励ましてくれて、嬉しい時には一緒に分かち合ってくれる私の道標だったのに。

どうやって諦めればいいのよ。

諦める為にきたのに、その方法がますます分からなくなる。


また、貴方に''愛してる''と言いたい。

また、貴方に"愛してる"と言われたい。


貴方の腕に抱かれたい。


「待たなくていいって何なのよ…。」

割れんばかりのスタンディングオベーションの中、1人呟きながら涙を流す。

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