聖夜にセレナーデ
何回も続くアンコールに笑いながら答える彼。
ショパン以外の作曲家の曲もまた輝きを持っていた。
そんな彼の演奏を私の中の私が遠くから聴いている。
はっきりしていない意識。
彼が再び客席に向かって礼をしたのが分かる。
鳴り止まない拍手に、今度はマイクを持つ彼。
「本日は、私、林道 春妃のコンサートにお越し下さり、ありがとうございます。皆様と音楽を共有できた事、大変感激しております。」
彼がそこまでしゃべった時、また拍手が起こる。
鳴り止むまでの間、ジッと客席を見渡すような素振りを見せた彼。
ふいにその彼の目が私に向いた気がした。
「次の曲ですが、私自身が作曲した曲を弾かせて頂こうかと思います。最後の曲となりますが、お楽しみ下さい。皆様の元に幸せが訪れますように、メリークリスマス。」
聴こえてきたのは温かい和音に美しい旋律。
穏やかな曲調。
それまで荒れ果てていた心が静まってゆく。
暖かく包み込まれ、解される。
なんだかこの感覚懐かしい。
昔、よく彼が抱き寄せてくれた時の感覚に近いけれど、もっと暖かくて心地よい。
再び流れ出す涙。
でも、さっきの涙とはどこかちがう。
この音楽を聴いたら、それだけで糧にして生きていけるかもしれない。
不思議とそう思えた。
つかの間の音楽だったけれど、パワーを貰えた。
私、もう少しだけ頑張れるよね。