別れるための28日の蜜日
「ずっと言えなくて、百合には悪かった。こっちにいる間はじいさんの会社の事は言わない約束だったからさ」

「ね、律人のおじいさんの会社ってどこ?」

「‥‥取引先のイナガキ」

「えっ?イナガキってあの、イナガキ!?」

確かに律人の名字は「稲垣」だけどさ、あんな大企業の創業者一族とか、思わないでしょ、普通。


株式会社イナガキは従業員数5000人を超える大企業だ。元々和菓子屋だったのを三代前の社長が総合食品商社に拡大させて、今では日本を代表する企業の1つだ。


「おじいさんが社長さんなの?」

「いや、今はじいさんの長男が継いで、じいさん自身は会長。俺の親父はさ、息子だけど会社に入らずに自分の好きな事やっててさ」

「好きな事?」

「大学で研究。ホントの研究バカで万年助教授で終わりそうだけどな」

ハハッと律人は今日初めて笑った。
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