不思議の街の不思議な話
「ちょ、ちょ、タンマ!!!」
慣性の法則で、発進の瞬間猛烈に後ろに引っ張られた私は、衝撃に落ちそうになりつつも後ろで温かい誰かの体にぶつかる。後ろの乗客は急発進にも微動だにせず、冷静に私を受け止めると、平然とした顔で尋ねた。
「大丈夫?」
私の両手は何か掴まる場所を求めて宙を掻くが、鞍のないアルトの体のどこにもそんな場所はなく、辛うじて掴んだフワフワの毛は短すぎて持ちづらい。
発車の衝撃で、不自然に顔だけ天を仰ぐ形になった私の目は、こちらを上から覗き込むブランの深い緑の瞳と合ってしまう。
「手、楽にしてていいよ。オレが持ってるから。」
私が慌てている様子にも動じることなく、彼はいつものようにふわりと笑う。何故か猛烈に恥ずかしくなってしまう。
「アルトは乗りにくいよね。気持ちはわかる。」
「あんだと?」
「背中の毛は短いから、サイドの長い毛を掴むといいよ。」
下で不満をたれるアルトをよそに、ブランは穏やかに話した。なんだこのイケメン。
ようやくまともな姿勢に戻った私は、言われた通りに、サイドの毛を掴んだ。