不思議の街の不思議な話
「ここは中央入り口から直接繋がる、入ってすぐの館内のエリアだ。すなわち人も多くて、逃げる入り口も近い。」
「基本、一個しか出入りできる場所はねーからな、このヘンテコ図書館は。」
「基本…ってことは裏口がるってこと?」
好奇心をくすぐられた私が質問をすると、ブランは答えることに一瞬躊躇したように考えたが、言葉を続けた。
「そうだね。例えば、君が異世界から来た入り口もその一つだ。他にも多数、人の侵入が報告されている場所がある。」
「だが、基本的にはメインの入り口一つだ。一般人はそこから入ってくる。あとは公にはされてねー。」
ブランの回答にアルトが補足し、満足に答えられたそれに私は納得した。だが知れば知るほど謎が生まれる。
「なんか広すぎて不思議な図書館ね。」
「全貌はオレたちすら知らない。」
ブランが苦笑いして言った。それって大丈夫なのか。
「2階に上がって少し奥に進めば、オレが話してた空き部屋がたくさんある。」
そう言って先陣を切って歩き出したブランの後に、私とアルトも続き、階段を降り、規則正しく連なる長い机を横切ると、再び階段を上って、そこから続く豪勢な青い絨毯のエリアに入って再び階段を上る。この移動だけで5分はかかるほどの異常な広さだ。
「図書館に空き部屋ってなんか不思議ね。」
ふと思った感想を口にしたが、ブランは軽く笑って流した。どうも説明が面倒くさいのか、それとも何か隠しておかなければならない秘密でもあるのか、ブランの態度はたまに釈然としない。
まぁ、私がそんな深い入りするのも変な話だけど。
この時はまだ、私は元いた世界にすぐに帰れるつもりでいた。だから焦ってなどいなかったし、ゆっくり館内の内装に感心する余裕があった。
これから想像を超える、厄介な生活が始まるとも知らないで。