不思議の街の不思議な話
「ねえ、レイリー?」
19番の目の部屋にて、さらに多くの書類を用意しようとしているレイリーに話しかける。これでもレイリーはビジネスマンらしい。びっしりと書かれた書類をアルトが用心深く観察していた。
レイリーはそっちに集中しながらも、「んー?」と生返事で私に答えた。
「一体、部屋っていくつあるの?」
「…把握はしてないけど、多分112から120くらいはあると思うよ。」
なにそのアバウトさ。ていうか多っ!いつもの如く、どこから突っ込んでいいのかわからない。
「でも半分以上はケイレブ様の所有と、あとは亜人、妖精その他の所有物だから、お姉さんに貸してあげられるのは残りの30くらいの部屋だね。」
なに「お姉さん。」て。萌え。…て、違うだろ。レイリーも子供らしくしてりゃ天使なのにね。
そんな私の心など露知らず、レイリーの表情は少し曇った。
「…、そうだ、今の話で思い出した。お姉さんには、ケイレブ様のことは話しておかないと。」
「ケイレブ様?」
「東北の辺境地の総督の息子で、自身も幾つか土地と南方遠征の株式も所有してる、変な趣味のナルシストボンボンだ。」
アルトが口を挟む。
「ナルシストボンボン?」
「そう、部屋に自分の肖像画とか飾ってたり、何時間も鏡の前にいたりする。」
ゴソゴソと、引き続き書類手続きの準備をするレイリーは、言葉でからかっている様で、表情は真剣だ。
「だが、すごいお偉い様だから気ぃーつけろってこった。」
「気をつけるって何を?」
「今の俺みたいな喋り方は絶対にすんなってこと。」
「礼儀には厳しい方だし、それからこちらから目はあわさない方がいい。」
レイリーは持っていたトランクをパタンと閉めた。