不思議の街の不思議な話
「遅い。」
短く言った少女の頬はリスのように膨らんでいる。
「ごめんよ、アビイ。」
「許さない。」
歳はまだ10歳にも満たない少女は、可愛い顔して、淡々と怖いことを言う。紫がかった瞳と高い位置から左右に垂れるオレンジ色のツインテールがピンとドリルのように地面に伸びている。長いドレスは足を隠して、おそらく、歩くときには引きずることになるだろう。
ブランはニヘラと笑って許しを請うが、小さな鬼は真っ赤に怒ってその場を動かない。
「アビイ。」
「理由を述べよ。」
なぜ命令調。少女は強気で高飛車だ。
ブランは観念したように、頭を掻く。
「仕事だったんだよ。」
「それで?」
「... 遅くなった。」
恐妻に攻められておたつく夫のようである。少女の尋問は続く。
「そこについては納得したとして。」
ジロリとねちっこい視線が私に張り付いて、こんな小さな少女相手になぜか背筋が伸びた。
「そこのお嬢さんは?」
再びブランに視線を戻した少女が訪ねた。
「異世界の...」
「また?」
「こればっかりは。」
「あなた、異世界からの迷子でも持ち帰る星の下で生まれたんではなくって?」
少女は吐き捨てると、ようやく玄関扉からどいて、扉を開いた。