不思議の街の不思議な話
おずおずとブランは中に入り、私を見ては手招きした。少女から圧倒的な殺気を感じるものの、トコトコ歩いてさっと中に入る。
私が入ったと見るなり、バタンッと私の背後のドアを乱暴に少女が閉めた。
「アビイ。」
ブランの呼びかけも無視して、少女は背を向けて歩き出そうとする。かなり機嫌が悪いようだ。
彼と少女の関係って一体なんなのだろう?尤もな疑問が頭をよぎる。兄弟....にしてはなんか。姪っ子....か?全然似てないけど。
「アビイ、ちょっと聞いてって。」
「聞くことなどございませんの。」
「アビイ、悪かったって。でも、今回は別の寝床を探したから。」
その場をさっさと去ろうとしていた少女の耳が、ピクンと反応した。
「...ではなぜ、そのお嬢さんを連れてきたのかしら?」
「今日一日だけ。まだ新居の準備ができてなくて。」
ブランが申し訳なさそうに謝る。ようやく振り返った少女はまだ、人形のような小さな唇をへの字に曲げている。
「それでワタクシにはどうして欲しいと?」
「たった一日かもしれないけど、一応君の承諾なしには勝手なことできないだろ。」
少女はフンと鼻をならすと、ピンクの扇子を広げて口元を隠した。
これをブランは肯定と取ったのか、私の背中を押して少女の前に出す。
「アビイ、こちらはルカさん。異世界からの住人だ。」
「よ、よろしく。」
促されてとりあえず言葉を発するが、少女は何も返さず、ねっとりと私を観察するだけだった。
「ルカ、こちらはアビゲイル。オレの...えーと、家族。」
今のブランの発言がさも侵害だというように、アビゲイルは目を丸くしてブランの方を見た。するとブランがおずおずといい直した。
「... じゃなくて、大切な人。」
思わず唇が直線に結ばれる。