不思議の街の不思議な話
大切な人って一体なんなのか。気になるけどあえて聞かない。
アビゲイルが少し機嫌をよくした隙に、ブランは私の背中を押してそそくさとその場を去ろうとする。
「アビイ、ルカには一回の南東の部屋を使ってもらうよ。」
アビゲイルは「なんだと?」と言わんばかりに目を見開いたが、彼女が反論する前に、ブランは私の手を引いて急いで視界を抜けた。
ーーーーーー
ブランに案内された客間で過ごした一夜(もう朝だったけど)はあっという間だった。というのも、扉の外にアビゲイルの殺気を感じて昼前には目が覚めたからだ。
扉を開ける案の定、そこには視界の下の方にオレンジ頭のツインテールがあった。こちらをすごい形相で睨んでいる。
「そろそろ出て行く時間ではございませんの、客人。」
「アビイ!!」
この様子を見たのであろう、ブランが廊下をバタバタと走ってこちらにやってくる音が聞こえた。
「お客様には感じ良くだろ、アビイ。」
「フン。」
そっぽを向いたアビゲイルに、やれやれとブランが苦笑いを見せる。
今日初めて目にする、ブランの姿。大きなシルクハットは被っておらず、元々くせ毛なのか、寝癖なのか、髪の毛が想像していたよりもあちこちに向かってクルクルしている。ルーズな寝巻きに、触り心地の良さそうなフカフカのスリッパを履いていた。
私がまじまじと見るせいか、ブランは少し顔を赤らめたようだった。
「ごめん、なんかこんな格好で。」
「え?う、ううん、大丈夫よ。」
なんだか下の方から圧力のある視線を感じた。