不思議の街の不思議な話
買い物はアルトがさっさと済ませたおかげで、素早く終わり、帰りに時計台のある大広場を通って図書館への道をたどることになった。
大広場からは行政機関や大聖堂、銀行といった重要施設に繋がっていたが一際目立っていたのは、大きな記念館の前にある狼の像だ。
空に吠えるようなその狼の像を、アルトは遠目から食い入るように見つめていた。日は落ちかけて、あたりが紫色に染まってくる。
「アルト…?」
アルトが石のようになって動かない様子を見て、私が声をかけると、ふと我に返ったアルトは「悪い…」と珍しく申し訳なさそうに呟いた。
「ねぇ、謝肉祭はいつ始まるの?」
「…三日後…で、一週間続く。」
話したくもない内容をあまり聞いてもタチが悪い、とこれを最後の質問にしようと思って尋ねた。短かく返ってきたその返答は、少しも喜びの声色を帯びていない。
寧ろ、少しどこか儚げで寂しそうだった。