甘々なボスに、とろけそうです。
扉付近にいるインテリ眼鏡とは対角的に、窓際にいる私。
「おいでよ」
2人で乗るにはとても広いエレベーター内で、知り合いでもないのに近くにいるのも変かなと……なるべく離れて立っていたのだけれども。
お言葉に甘えて、1歩、扉に近づく。それでも、男にずっと近づいた。
男は、腕を組んで壁にもたれかかっている。
「ねぇ、君。男探してるの?」
(えぇっ?)
突拍子もない質問に、思わず『は?』と言いそうになった。
「あ、あの……」
「5年……いや、10年はやいんじゃない? 君がここの男を口説くなんて」
(!?)
なにこの人。だんだん口調が……
「ご、誤解で――」
「やめときなよ。色気なさすぎ。っていうか、ダサい」
さ……
『最低……!! ちょっとでもカッコイイとか紳士だとか思った私がバカだった!! 色気なくて悪かったわね、オッサン!!!』
――なんて言葉が咽まで出かかったが、呑み込んだ。
ここは、兄の職場。騒ぎを起こしてはマズい。