甘々なボスに、とろけそうです。
なぜ兄に会いたいかと、聞かれるだろうか。その時は、正直に話そう。忘れ物を届けに来ました……と。
ここでボスに嘘をつくのも、ごまかすのも、兄のためにならないと思うから。
「その必要はない。あれは俺が用意させたからな」
(……え?)
予想外の返事に、ついていけない。ええと……〝あれ〟とは?
――プルルルッ
シンプルな携帯の着信音が、鳴り響く。私のでは……ない。なぜなら私は、電車に乗る前にマナーモードにしていたから。
ボスが、胸元から携帯を取り出す。黒いスマートフォンだ。
「どうした」
(……あっ)
さっきまで、私のことを優しく見つめてくれていたのに、瞬時に鋭いキリッとした顔つきになった。
肩にまわされていた腕はほどかれ、立ち上がったボスはデスクの方へとゆっくり歩いて行く。
あれが、ボスの、仕事の顔……。
さっきまで触れられていた顔や肩が、熱い。
「……まだだ」
(!)
突然ボスの声のトーンが下がる。
「いいか。もっとごねろ」
……?
「俺をガッカリさせるな、裕樹」
(!!)
電話の相手に、裕樹って言った?
もしかして、お兄ちゃんと話しているのっ!?