甘々なボスに、とろけそうです。


(って……仕事の電話に聞き耳をたてるなんて、ダメだダメだ)


契約書に目を向ける。どうして、空欄がこんなに多いの?

時間も休みも給与も決まっていないのに、従事できるわけ……


「書けました?」


(!!)


室井さんが、隣に立っていた。忍者ですか。いつの間に戻ってきたのですか。


「おや。顔が赤いですが……ここ、暑いですか?」

「い、いえ!」


ボスに迫られたせいで心臓が鳴り止まないんです、なんてことは言えない。


「でしたら、社長になにかされました?」


「……っ!?」


忍術ならぬ読心術ですか。


「やはり。早速ですか」


どういう意味でしょうかそれは……!?

あきれ顔の室井さんが、ペンをテーブルから取って渡してくれる。


「さぁ、どうぞ」


「どうぞって……条件が、なにも書いていないんですけど」


「好きなことを書き込めばいいのです」


……はい?


「すきな……こと、ですか?」


「ええ」


「時間とか、お給料を、ですか?」


「そうです」


「希望を書けば考慮されるということでしょうか……?」


「いいえ。考慮でなく、その通りになります」



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