甘々なボスに、とろけそうです。
そんな……都合の良い話が、あるわけ……
「うまい話には裏があると、お考えですか?」
――また、心を読まれてしまった。
この人……室井さんは、とっても爽やかに笑うけれど、なんだかボスより怖いオーラがあるような。影のボス的なものを感じるのは気のせいだろうか。
「恐れることはありません。ここは〝B.C.square TOKYO〟ですよ?」
そうだ。ここは、誰もが羨むセレブなオフィスビル。
会社からしたら、私に1ヶ月支払う賃金くらいの支出が、仮に無駄な出費になったとしても、痛くも痒くもないのかもしれない。
だけど――
「私は……自分が、このビルに入っている会社で働けるほどの器量を持っているとは思えません」
「!」
「ましてや働く時間帯やお給金を選択できる立場でもありませんし、秘書なんて責任の大きな仕事、とても請け負えないです」
「でしたら、この話は断りたいと……そういうことですか?」
「いえ、違います」
私は頭の中で考えを整理しながらゆっくり話を続けた。
このオフィスで働きたい気持ちがあること。
猫の手も借りたい時間帯に、雑務などがあれば、どんな仕事でもやる気でいること。
給与は、食費や交通費が出せるくらいはもらえると助かること。
もちろん自分の働きがそれに相当するまでは、無賃も覚悟していること。