甘々なボスに、とろけそうです。


兄に会ったら聞きたいことが山ほどあったというのに。

……仕方ない。ちょうどエレベーターの扉が開いたので、1人で乗り込む。

28階のボタン、押さなきゃ――


「ご一緒してもいいですか?」


誰かが乗り込んでくる。


「ど、どうぞ……! 何階ですか?」


「30階を、お願いします」


「わかりました、30ですね」


ボタンを押して、振り返ると、そこにいたのは……


「あっ」


へ、変態眼鏡……!!!


「どうかしました?」


(……あれ?)


ひょっとしてこの人、私のこと、覚えていないの?

服も髪型も違えば、お化粧もして、今朝とは雰囲気が違うから……気づかなくても無理ないか。

だったら、都合がいい。このまま、忘れてもらおう。


「僕の顔に、なにか?」


「……っ、なんでもないです」


エレベーターの扉が閉まり、上へと動き始める。


(はやく着いて……!!)


うつむいて、エレベーターの到着を祈る。また耳でも噛まれたら、たまったもんじゃない。


「あの」


なっ……なぜ話し掛けてくるのだ。無視するのは、感じ悪いかな。


「……はい?」


「押さなくていいんですか、ボタン」


「……!!」


いけない。変態眼鏡の降りる30階だけ押して、28階を押し忘れていた。


ボタンに手を伸ばした瞬間――


(!?)


手首を掴まれた。


「ねぇ、君。どこかで会ったことあるよね」

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