私の家は52F!?〜イケメン達と秘密のシェアハウス〜



その後も源之助から愛情表現という名の嫌がらせを受けながら、家の間取りを教えてもらった。

広すぎて、しばらく迷いそうだ。

辛うじて、玄関から自分の部屋への道と風呂、トイレ、洗面所の位置だけは覚えた。

リビングスペースは玄関から入って真っすぐの場所にあったので迷わず行けそうだ。

「困ったら、俺のこといつでも呼んでね」

もっと迫ってくるかと思いきや、源之助はアッサリとあずさの部屋を後にした。

ジャングルジムとベビーベッドはクローゼットの中にしまった。

目のやり場に困るわけではないけれど、なんとなくしまった。

「……疲れた」

時計を見ると、もう夜の8時だ。

52Fなので、夜景が遠い。

どちらかというと、空の方が地上よりも近いので星が綺麗に見える。

今夜は雲が少ないせいか、星たちがより綺麗に輝いていた。

空を見ていると、家が火事で燃えてしまったことなど、夢だったのではないかとすら思う。

お腹がすいた気もするけれど、今日は少し眠い。

ベッドに横たわると、思った以上にふかふかで気持ちがいい。

天蓋付きなので、部屋の灯りもいい感じだ。

源之助に渡されたリモコンを「ピッ」と押すと、窓についているカーテンが自動でしまった。

ゴロゴロしながら、色々とボタンを操作する。

ボタンは全部で7個。

番号の短縮は自分で設定を決められるらしい。

1が窓のカーテンの開閉。

2が電気。

3がクローゼットの開閉。

4が空調。

5は鍵のロック、そして解除。

6は冷暖房。

7は何なのだろう。

何の気なしに押してみる。

しかし、何も起こらない。

「なんだ、変なの」

そう呟いて瞳を閉じようとした瞬間。



「あずさちゃん!どうしたの!?」

なぜかクローゼットの中から、源之助が姿を現した。


「きゃぁぁぁああああああ!!」


「うわぁぁあああああ!!」


あずさの叫び声に、源之助が驚く。

「な、なんで、そんなところから……!?」

廊下側から入ってくるなら辛うじてわかる。

いや、勝手に部屋に入ってほしくはないけれども。

何故クローゼットの中から出てくるのか。

「いや、あの部屋俺の部屋と繋がってるから」

落ち着きを取り戻した源之助が、あずさに言った。

「え?」

「うん」

「いや、うんじゃなくて……」

なんで大事な情報を後出しにするのだろう。

居候させていただいている身としては、あまり偉そうなことは言えないけれど。

「ごめんね。もしかして、俺と同じ部屋がよかった?」

「……そうじゃない!」

「あずさちゃんってさ……」

「な、なに?」

ワガママとでも言いたいのだろうか。

確かに、居候の身で泊めてくれている主人に向かっての口の利き方ではないと思うけれど。

「ツンデレだよね?本当は嬉しいけど、素直に言えないタイプでしょ?」

「……」

もう何も言うまい。

「ところで、あずさちゃん。お腹すかない?」

「……確かに」

今日は昼のまかないのパンを食べてから何も食べていない。

「ごはん食べに行く?」

「みなさんは……?」

「あいつら誘ったけど、仕事が忙しいから今日はパスだってさ」

源之助と一緒にご飯。

簡単に言っているけれど、ファミレスとかではないのだろうな。

お金足りるかな。と財布の中に入っている金額を頭の中に思い浮かべる。

「……」

「あ!今デートだ。って思ったでしょ?」

「思ってないです!あまり高いところだと、払えるかなと」

「大丈夫、大丈夫。お金の心配なんか俺といる時、しなくていいから。おいしいご飯食べに行こうね」

頭をポンポンと撫でられる。

「……」

「準備して。行くよ」

「……はい」

素直に返事をしてしまった。

何だろう。源之助のペースにどんどん乗せられてしまっている。

こんなに流されやすい性格だったかなと、自分自身がとても心配になった。
< 12 / 94 >

この作品をシェア

pagetop