私の家は52F!?〜イケメン達と秘密のシェアハウス〜
FURADA。
アメリカのシアトル発のコーヒーショップ。
スターバックス、タリーズコーヒーと肩を並べるとまではいっていないらしいけれど、今を時めく世界展開をしているコーヒーブランドだ。
日本に初上陸して、B.C. square TOKYOという名前の55階建てビルの2Fに入っている。
日本ではまだ知名度が低いが、一度飲んだらまた飲みたくなるとリピート客が多いのでFURADAの朝は非常に忙しい。
特にB.C. square TOKYOにはたくさんの企業が入っているので、色んな会社員の人が朝や残業のお供としてコーヒーを買って行くのだ。
「日下部さん。この納品の棚卸お願いしてもいいかな。ピークの時間も去ったことだし」
朝のピークが去った後、店長の中村に頼まれて、あずさは「わかりました」と返事をして作業を開始する。
春も4月末となってくると、夏の商品が展開されるらしい。
メニューには、マンゴーのスムージーが可愛らしく描かれている。
FURADAのメニューの特徴として、毎回かわいいイラストが描かれているのが売りらしい。
写真投稿アプリのインスタグラムなどで検索すると、海外の女の人がメニューと一緒に自撮りをして写真をアップしている。
商品の実際の写真もあるのだが、メニューは全て手書きのイラストだ。
「うん、これでよし」
メニューセットを袋からすべて出し、販売用のマンゴーティーも段ボールから取り出す。
あとは店の棚を並び替えるだけだ。
裏から表にメニューの束と棚に並べる用のマンゴーティーを持って出ると、視界の中に突然入ってきた男がいた。
「あーずーさーちゃん」
「……」
「え、なんで無視するの?」
「……」
「あーずーさーちゃーん。My sweet honey~。My baby」
「……」
「キスまでした仲なのに」
ボソリと呟かれ、あずさは振り向き「今、仕事中なんです!」と噛みつく。
職場であずさに付きまとう男、源之助の左頬が赤いのは、あずさが思い切り平手打ちをくらわせたからだ。
人の唇を奪っておいて自業自得だ。
24歳にもなってキスごときでと思うかもしれないが、あずさにとってキスとは非常に大事なものだ。
勝手に奪われて、まあいっかとはならない。
「あずさちゃん、今日仕事何時に終わるの?」
「……17時です」
「夜ご飯は一緒に食べようね」
「……」
「ね。あずさちゃん」
「……」
「聞いてる?」
「……」
「あーずーさーちゃーん。無視するなら、ここでもう一度キスするよー?」
「あーもう!わかりました。ご飯ですね」
あまりにしつこい鬼絡みに耐え切れず、あずさはマンゴーティーを棚にポンと置いて源之助の方に向かって言った。
「約束だよ」
嬉しそうに笑って彼は、その場を去っていく。
手には新商品のコーヒーを持っていた。