私の家は52F!?〜イケメン達と秘密のシェアハウス〜
「まさか、こんな女を連れ込んでいるとは……。松平の名が廃る」

光之助はあずさを睨み付けながら、源之助に吐き捨てるように言った。

鍋がグツグツと煮える音がする。

あともう少しほっておけば、確実に鍋の中の者が沸騰して溢れかえるだろう。

そろそろ火を止めないと、と思いつつもまるで獲物を睨み付ける蛇のような視線に、あずさは身動きを取れないでいた。

「兄さん……」

「……」

「……」

嫌な沈黙が部屋の中を包み込んだ。

来て2日目にして訴えられるような事態になったら悲惨だ。

そんなことなら、さっさと出ていった方が得策なのではないかと思った瞬間

「なーんてね」

と光之助が笑って言った。

「え?」

「こんなかわいい女の子を連れ込むなんて、源之助も隅に置けないな。はじめまして、あずささんだっけ?源之助の兄の光之助です。よろしくね」

笑顔で言われ、呆気にとられる。

先ほどまでの禍々しいオーラはどこかに消えてしまっていた。

「えっと……」

「怖がらせてしまったようで、申し訳ない。源之助もだけど、我々は昔から厄介なものに付きまとわれることが多くてね。今回もその類だと思ってしまったのだよ」

ニッコリと人懐っこい笑みで言われると本当にそうだったのだと少しだけホッとした。

「兄さん。何しに来たの?」

警戒を解いていないといった様子で、源之助が兄に詰め寄る。

「なんだよ。久々に可愛い弟の顔を見に来た兄に向って随分と手厳しい態度だね。それともこの子に僕が何かしたと思っているのか?」

「何かしたから、あずささんがこんなに怯えているんじゃないのか?

「いや、何もされてないから。ビックリしただけ」

兄弟喧嘩が勃発しそうで、あずさは慌てて仲裁する。

そして鍋は完全に吹きこぼれている。

電気式キッチンだったから悲惨にならずに済んだものの、あずさが住んでいたアパートだったら完全にアウトだ。

「ならいいけど……」

兄とあずさの間にはいるようにして源之助は言った。

「弟に歓迎されていないようだし、今日のところは帰宅するよ。では、あずさちゃん。近いうちにまた」

不穏な笑みを残して、光之助は部屋を後にした。

「あずささん、けがはない?何もされてない?」

まるで過保護な父親のように源之助があずさに駆け寄り抱きしめる。

「源之助さん……」

「なんだい?マイスイートハニー?」

「今台所にある包丁で、私のお尻にある手を切り刻んでもいいですか?」

「本望だよ」

「気持ち悪い!」

あずさは源之助を突き飛ばす。

「なんで?僕の愛を表現しただけなのに」

「いや、だからそれが気持ちわるい!」

源之助の顔を見てホッとしたのは、気のせいだったのだ。

全くこの男はと思いつつ、あずさの作った料理を嬉しそうに見ているので彼女は溜息をついて「ごはん作ったんですけど、いかがです?」と彼に尋ねた。
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