私の家は52F!?〜イケメン達と秘密のシェアハウス〜
やはり不動産屋に行こう。
そう思い立ち、あずさはこっそりと家を出る。
エレベーターに乗って、1階まで降りると守衛の田中さんと遭遇した。
「お疲れ様。今日は、一人なんだね」
52階の住人だとばれてしまっているが、田中さんは何も変わらない。
この間差し入れしてくれたマンゴーティー、妻に好評でね。
なんて穏やかに話をしてくれる。
「また差し入れしますね」
ニッコリと笑って挨拶をすると「ちょっと、待って」と袋を差し出された。
「これ、妻が焼いたマフィンなんだがぜひいつもの御礼に渡してほしいと頼まれてね」
紙袋の中にたくさん詰め込まれたマフィン。
ふんわりしていておいしそうだ。
「え、いいんですか?」
「いつもいる男の人と一緒に食べてください」
いつもいる男の人とは源之助のことだ。
何となく気まずくて、あずさは「は、はあ」と曖昧な返事を返してしまう。
「これからお出かけという時に邪魔だったかな?」
「い、いえ!とんでもないです!美味しくいただきますね!」
返事をして「それでは」と歩きだす。
「彼氏にもよろしく」
と田中さんに言われ、ハッキリと返事も出来ないまま足早に出口へと向かった。
出口を出た瞬間、後頭部に鈍い衝撃が走る。
誰かに殴られたのだと思ったところで、あずさの意識が途切れた。
一人の女の人が、彼女を見下ろし立っている。
その後ろに黒服を着た背の高い男があずさを抱え、トランクの中に入れる。
「早くいきましょう」
二コリともせず、その女性は黒服の男に言い放ち、二人は黒いベンツに乗り込んで車を走らせた。