私の家は52F!?〜イケメン達と秘密のシェアハウス〜



彼女と最初に会ったのは、財閥の総帥になると決まった時だった。


任命されて戸惑った。


ずっとそれは兄の役割だと思ってきたからだ。


あの時の兄の顔を源之助は未だに忘れることが出来ない。


「なんで……お前が?」


かすれるような声を忘れもしない。


なぜ自分が選ばれたのかもわからなかったし、自信など皆無だった。


だからB.C. square TOKYOのビルを任され、まずはそこをうまく管理してみろ住み始めた時不安から友人達を呼んだ。


一緒にいるとアイディアもくれるし、迷うことが少なくなった。


ただ、心の奥底では不安と戦っていた。


ある時、ビルの2階にコーヒーショップが入ったということで興味本位でのぞいた先に彼女はいた。


一生懸命に自分の店の商品を試飲させていた。


「新しくオープンしたシアトル発のコーヒーショップFURADAです!よろしくお願います!仕事のお供にどうぞ」


優しい笑顔でサラリーマン達にコーヒーを配っていく姿は、まるで子供を応援する母のような姿に見えた。


源之助の父と母は忙しく世界中を飛び回っているため、あまり一緒に過ごしたことがないのでよく分からないが。


ただ眺めていると「コーヒーどうですか?」と彼女はこちらに気が付いて言った。


「あの……」


「お時間あるならぜひ」


彼女にとっては営業の一つだたのかもしれないが、そのコーヒーは美味しく話まで聞いてくれた。


「大変そうですね……」


今とは態度が全く違うが。


「大丈夫ですよ。自分でやれるってイメージがあれば、たいていのことは上手くいきます」


ニッコリと笑って背中を押された気がした。


その日から不安が嘘のように取れ、仕事も上手く回り始めた。


だから毎日彼女のいる時間にコーヒーを買いに行き、元気をもらっていた。


それが恋心だと気が付くのにそうは時間がかからなかった。


自分の人生を変えてくれた女性。


そんな彼女を手放す訳にはいかないのだ。


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