男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
男装の伯爵令嬢
◇◇◇
なにかの気配がして、ふと目覚めると、窓から差し込む月明かりが、キラリと刃を光らせていた。
ベッドで仰向けに寝ている私の鼻先に、剣先が突きつけられているのだ。
汚く笑う声がして、暗がりの中にぼんやりと、髭面の見知らぬ男の顔が見えていた。
「フォーレル伯爵の娘、ステファニーだな?
ちょいと起きて、屋敷ん中案内してもらおうか。
お宝、探したんだけどよ、これっぽっちしかねぇんだわ。どこに隠してあるんだい?」
夜盗に奇襲されて驚いたのは一瞬のこと。
部屋の中に素早く視線を配り、この男の他に侵入者はいないと判断する。
耳をそばだてても男の荒い鼻息しか聞こえず、屋敷の中は静かで、家族も使用人も皆、眠りの中にいるようだ。
なんだ、ひとりか。つまんないの……。
夜盗の右手には錆びた剣が握られて、それはまだ下されることなく、私の鼻先に突きつけられている。
左手が握るのは麻袋。
袋の膨らみ方が僅かなところを見ると、中身は少々のお金と、銀のナイフとフォークくらいだろう。
伯爵家と言っても、うちは落ちぶれた田舎貴族。
盗れる物など、元からほとんど存在しなかった。
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