男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
生まれ育った家だから、どんなに見すぼらしくても、この先もずっと残っていてほしいと思う。
でもステファンがあんな調子じゃ、大公の城には行けず、反乱分子と言われて、この家はお取り潰しとなりそうだ。
どうして怖いと思うのだろう?
双子なのに、その気持ちがさっぱり理解できなかった。
私ならワクワクして、きっと十一歳になった年に旅立っていたと思うのに。
大公の城に行けば、憧れの青の騎士団を間近で見られるし、もしかすると訓練体験させてもらえるかもしれない。
ステファンが羨ましい。
私も男に生まれたかったな……。
椅子の上で体を丸めて怯えるステファンに、両親はふたり掛かりで説得を続けている。
「頼むから、行っておくれ」
「お勉強しに行くだけよ? 大丈夫だから」
情けない姿を見せて、首を横に振り続けていたステファンだったが、急に椅子を鳴らして立ち上がった。
震える両拳を握りしめ、涙目でキッと父を睨み、珍しく強い口調で言い返している。
「い、嫌だって言ってるでしょ!
大公殿下は、怖い人だっていうじゃありませんか。僕みたいな田舎者はきっと、虐められる……こんなこともできないのかと、打たれるかもしれない!」