男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
それを聞いて私は、はたと考える。
大公殿下って……怖いの?
この国の王である大公殿下について、私はほとんどなにも知らなかった。
十年前の戦乱を終わらせたのは先代で、その息子が今は政務を執り行っているということくらいの知識だ。
確か、七年ほど前に即位式があり、両親が都に呼ばれて出向いていたけれど、私たち双子はまだ子供だからと連れて行ってもらえなかった。
ステファンは大公殿下について、父から話を聞かされていたの?
ズルイ……私には都について、なにも教えてくれないのに。
頬を膨らませる私と、精一杯な強気な目を向けて両親に逆らうステファン。
父は「落ち着きなさい」とステファンを宥めてから、説得を続ける。
「大公殿下は怖いお方ではない。堂々と威厳に満ちて、それはそれは立派なお姿だった。
田舎者だからといって、粗末に扱ったりせんよ」
「う、嘘だ!」
「本当だよ。剣の腕前も見事だと聞いておる。青の騎士団長と、肩を並べるほどにな」
父は褒め言葉として大公殿下の剣の腕前を口にしたようだが、それはステファンには逆効果。
ますます怯えさせてしまったみたい。
私はというと、完全に自室に戻る気をなくして父の話に目を輝かせ、「素敵」と呟いていた。